雅・処

好きなアイドル・俳優・映画・演劇などエンタメ一般やスポーツについて自由に語ります。

映画『御法度』の忘れられないエピソード

映画を取り巻く沢山の思い出

1999年公開の大島渚監督作『御法度』、この映画について書くにはあまりに思い出が多すぎて、なかなか触れることができないなあ・・・と思っていたのですが、先日、久しぶりに映画を見返したので、この機会に書いてみよう、と思いました。


この映画の原作は司馬遼太郎の短編「前髪の惣三郎」という衆道(侍社会の同性愛)を題材にした画期的な作品です。新選組の中に入隊した美形の若侍、加納惣三郎をめぐって、隊士達に間に巻き起こる怪しい男色の騒動を描いておりますが、実際にあったいくつかのエピソードを元にした創作小説のようです。


巨匠、故大島監督が「戦場のメリークリスマス」の後に作った、サムライの同性愛話であり、遺作ともなった作品。更には、この映画で鮮烈デビューとなった16歳の松田龍平が主人公惣三郎を演じています。北野武土方歳三役)・武田真治沖田総司役)・浅野忠信(田代彪造役)など豪華キャストが登場します。


他にもこの映画の後で、ブレイクした(?)中堅役者に、田中要次さんや田口トモロヲさんもおり、すごく印象に残っていたりもします。無冠には終わりましたが、カンヌ映画祭にも出品され、海外では「TABOO」というタイトルで公開されました。


当時、劇場における13回の鑑賞自己最多記録があるのですが、「そこまで本当にハマる作品か?」と聞かれたら、そんなこともなく、当時ネットを通して知り合ったゴハッター(御法度ファンの総称)との交流の結果であることは違いないのですが、それもこれも今となると、熱に浮かされた上での楽しい思い出です。


とはいえ、数年ぶりに見返してもついつい見入ってしまうほど、この映画には何か分からない怪しい魔力がありますね。まあ、怖いもの知らずの龍平君の棒読み演技と妙な色気のミックスぶり(笑)とか、毛深い男の魅力たっぷりの若くて綺麗な浅野さんや、「オマエが一番誘ってるだろ!」とツッコミ入れたくなる爽やかすぎる武田君とか、役者の魅力もたんまりなのです。


あれからすっかり立派に(個性派俳優として確立するほどに)成長した龍平君を見て、毎回「演技が上手くなったなあ~」と感心しきりなのですが、それだけ未知数の原石で、「本当に役者を続けられるのか、この子は?」と思っていたものです。結婚して、娘をもうけ、離婚していろいろと渦中にはあると思いますが、波瀾な人生を過ごしているようですね。

【松竹映画関係者との交流】


一方、この映画が他の映画と本当に違った印象を抱かせるのは、当時、松竹の公式掲示板を通して信じられないくらい発展したファンの交流パワーの凄さです。まあ、同人系(創作班)の方を始め、龍平ファン、役者ファン、が有象無象集まってこの映画について、思いのたけを吐き出しておりました。その勢いは、映画の公開から各種賞レース、DVD発売までおよそ半年間続きました。


今なら大手の映画会社関係者は、公式サイトで適当に情報を小出しして、Twitterやインスタグラムなんかで「皆さん、口コミよろしくね!」と他力本願、お金も時間もかけずに半分放置してるのが大半でしょう。当時も、何かと荒れたり炎上しやすい公式掲示板は途中で閉鎖されたりルールが厳しくなって段々パワー減退していく・・・というのが大半でした。


御法度のBBSも最初はのどかに映画ファンの書き込みが進行していたのですが、盛り上がると同時に段々マニアックになって途中からなぜか第二次創作(長編小説)に走り出す人やら、小ネタ満載(沖田と土方の関係性や、田代の胸毛、沖田のふんどしネタなんてのもありましたね)やら、甚だしく脱線したりして何度か危機が訪れたりしてました。そこを仕切ったのが、管理人の”惣二郎”さん。


れっきとした松竹の関係者(恐らくは社員の方)でした。まあ、その無駄のない極力邪魔をしない見事な仕切りぶりは、ネットのこちら側の私たちにどれだけ安心感と高揚感を与えてくれたことか。*1このBBSの異常な盛り上がりがきっかけで、自称”ゴハッター”はいろいろなイベントにも参加ができるようになりました。


オフ会の開催やブルーリボン賞式典の観覧、そして確かDVD発売イベントだったと思いますが、生の松田龍平君を呼んでの握手会もありましたね。現在、テレビドラマや映画で大活躍の個性派俳優、龍平君なんて想像もできないくらい、素人に毛が生えたようなのっぺりとした表情と色白の肌に仄かな色香、それでいて無愛想な16歳の少年(デカイけど)「一体どこ見てるんだ、君は?」というくらい視線も泳いでいた龍平君が浮かびます。


全て管理されつくしで「君達見る人、私達作る人」なハッキリとしたボーダーが引かれてる映画関係者と一般人では、あの盛り上がりは絶対に無理。せいぜい映画が大ヒットして、関連グッズやDVDが売れて、という予定されたサイクルの中で作品が消費されていくのが関の山です。今、20年近くたとうとしていますが、この「御法度」という映画1本に刻まれた、あの強烈な思い出は本当にとしか思えません。


熱狂的ファンの一時の勘違いとか気の迷いともいえるかもしれませんけど、作り手の方も今はネットの力に惧れを抱きすぎで何か事件が発生したら大変、ということばかりに気をそがれて、および腰になっているような気がしますね。もっと見る側の人間達を巻き込んだ方が、熱いムーブメントを作り出せるだろうになあ、と思ってしまうのです。人手不足や労力の負担を考えちゃうと確かに難しい一面もあるんでしょうけど。

【色々な体験をくれた1本の映画】


全く面識がないファンが集まって、内輪のゴハッター活動もしばらく続きました。今ではもう関係が続いていない人達もほとんどですが、本当に楽しい1年だったのは違いありません。映画のゆかりの土地を巡ったり、イベントに参加したり、他の映画にエキストラ参加したり、仲間の中にはカンヌ映画祭まで飛んで、現地で「チケット譲って下さい」のプラカードを持って会場に入りこめたツワモノもいたり。


そうそう公式オークションで映画の隊士服を手に入れた方もいましたね。ブログすらやってなかった私は、漫画の得意な友人に協力してもらい、最初で最後の同人誌を作成して売ってもらったり、なんだかミラクルなことばかりが続きました。一本の映画でこんなに沢山の経験が出来るもんなのかな、と信じられない思いでしたし。1本の映画が人生を変えてしまう、ということも本当にあるんだろうな、と今なら分かります。


DVD化やTV放映で、映画のラストシーンに(劇場公開時にはなかった)刀音と惣三郎のうめき声が追加された編集がファンの間で大論争を巻き起こし、松竹への不信感で幕切れとなった騒動は残念でした。海外では、惣三郎が念者である田代を殺した後で、沖田が惣三郎を成敗しに行く、という流れが分からないだろうから・・・ということで加味された編集だったとの説明がありました。


私としては、あまりにもその音声が無粋だったはひどく残念ではありましたが、正直なところ、そこだけに特化して怒る気にはなりませんでした。それ以外にあまりに得たものが大きかったからです。いやあ、本当に楽しかった。あの頃のゴハッターの皆様、お元気にお過ごしでしょうか(笑)?


御法度 [DVD]

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*1:今でも元気に活躍されているでしょうか?惣二郎さん。あの節はお世話になりました。