雅・処

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「トーマの心臓」過去話(1) 林勇輔レトヴィ編

メインキャストの卒業公演から

2003年の「トーマの心臓」は、初演からメインキャストを続演してきた笠原浩夫さん、山崎康一さん、石飛幸治さんの卒業公演と銘打って、全国ツアーもあり非常に派手な公演になりました。いつかは終わりが来るとは分かっていても(特に学園ものなので)、当時は割り切れない切ない思いもありました。


2000年の連鎖公演の時、後半の通いまくりで私を非常に魅了したのは意外にも石飛さんのレトヴィでした。原作とは一番違って、ライフ版レトヴィは要所要所で寡黙ながらもインパクトの強いキャラクターに仕上げられており、最初の出だしや中盤でトーマの思いを吐露する場面での詩の朗読は非常に味わいがあって、いつの間にか彼の低音ボイスの美しさと存在が心に沁み込んでいたのです。


よって石飛レトヴィの卒業は、大事な人が永遠に去っていくような寂しさを感じさせました。そして、この重要な役どころをバトンタッチしたのが林勇氏。さもありなん、演技は文句なし、声も美しくて詩の朗読にはまさに適役。更にその前年は、ロンドン帰り(演劇留学)の彼が「林勇輔イヤー」と言ってもいいくらいのもの凄いパワーでライフ内を席捲していました。*1


しかし、この配役を聞いたとき、実は一抹の不安がありました。彼の演技の持ち味は、大人しく控えめであろうとその実、絶対に存在感を消さない(笑)、ありあまるほどのパワーを見せつける演技が多かったのです。真に寡黙で奥ゆかしく、人の陰にひっそりと存在を潜ませるようなキャラクターで、かつ見る人達にしっかりとレトヴィの残り香を感じさせる・・・そんな役をちゃんと演じきれるのか?

【 生まれ変わったレトヴィ 】


不安は的中。東京公演で初めて目の前に現れた林レトヴィは、何か思いに沈んだような暗い少年の目をしていました。もちろん彼なりに熟考して役を掴もうと努力している様は感じられるのですが、「こんなに”迷い”のある演技は初めて・・・」と今までの自信に満ち溢れていた姿を思うと信じられないほど驚き、失望もありました。


「林さん、やっぱり上手かったね」と友人に声をかけられても「全然・・・ダメダメだよ」というのが正直な思いで(これでも本命さんなんですが)。


自分の中に石飛レトヴィが強く巣食っていたのは確かです。しかし、その強い枷を私だけでなく林さん本人も感じていたのではないかと思いました。それから2週間後の名古屋公演。悩んだ挙句、曽世バッカス見たさに(←おいおい(笑))観に行きました*2。幕開き、レトヴィが現れた時、それまでとは違う思いが湧き上がってきました。


 レトヴィ、なんか綺麗・・・


ライトのせいだけではなかったと思います(笑)。舞台からかなり離れた席から見た林レトヴィは、以前の”こっ暗い、地味な少年”とは違って、仄かな色気すら感じさせて、光の中にボワッと浮き上がり、不思議に綺麗に見えました。今ひとつ響きが足りなかった台詞もジンワリと残って「一体何事?これは」とびっくり。


翌日の名古屋でのパーティの歓談タイムで、「演技、変わりましたよね?何かあったんですか?」と林さん本人に真っ先に問いかけてみました。「分かりましたか?」とパッと顔を輝かせて応じる林氏。実はその後、石飛レトヴィがお気に入りなことや東京公演での林レトヴィがあんまりよろしくなかったことも率直に語ってしまったのですが(→なんちゅーファンだ)、会話の中ではとても素敵な顛末を教えていただけました。


東京公演後の2週間の間に、演出家と話し合ってレトヴィ像を作り変えたこと。それまでの「恋を一度もしたことのないピュアな少年」から「大恋愛を経験した後の少年」のイメージに変貌させたことを。このエピソードには、とても感動しました。当たり前のことですが、どんな役であっても役者にとってはその裏にはいろいろな思いや葛藤があります。裏の努力や精進は、その役者の血となり肉となり、見えないところでちゃんと漂ってきているのでしょう。


で、現在のレトヴィは”その大恋愛を経験して”トーマを限りなく愛してしまった一人の少年なのでしょうか(笑)。「彼のことが愛しくてたまらなくなった・・・」の表現にはかつてないほどの愛が溢れてまくってます。私もかつてのような波立った思いはなく、静かにしなやかに変貌する林レトヴィを楽しんでいます。


miyabi2013.hatenablog.com

*1:表の主役ではないのに、”カゲの主役”状態でとにかく凄かったのです。

*2:この公演は今までと雰囲気が違って面白かったので、また別項で書きます。