雅・処

好きな俳優・映画・演劇などエンタメ一般やスポーツについて自由に語ります。

ジャン・ジュネ作「女中たち」の混沌の世界

膨大な台詞の応酬に翻弄されて

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スタジオライフの劇団員である、林勇さん、石飛幸治さんが植村結子さんという女優さんと組んだ3人芝居『女中たち』を観ました。場所は、懐かしのウエストエンドスタジオ。


この狭い劇場にはいくつかの思い出があって、入るだけで懐かしい気分になります。階段を降るとセットがあるのではなく、全て取っ払った広間状態になっていました。テープで仕切られている部分以外に簡易座席が作られており、正面のみならず下手側にも座席があって芝居スペースを囲い込むように仕切られていました。


お客さんが少しずつ座り始めている開演15分ほど前に、女中姿*1の林さんが白い箱をいくつか並べ始めます。それがまたあまりにも自然なので一瞬「あれ、スタッフの人かな?」と錯覚するほど。あちこち真剣な顔で間合いを取りながら箱を並べた後、その箱の中から化粧道具などを並べ始めます。箱の一つは鏡台ということで、角の所に置かれました。植村さんと二人で淡々と女中仕事を始めます。


もうその頃から私は友人と話していても目は林さんを凝視していました。何せ久しぶりに彼の”思う存分の演技”を堪能できそうな作品です。言うなれば「林勇スペシャル・コース」のおでまし、を手ぐすね引いて(なんかちょっと違う?)待っている気分。自然と舞台が始まっている、というムードも、懐かしの「スリーメン」を思い出させて頬が緩みっぱなしでした。

【 芝居は虚構と現実を彷徨う 】


この『女中たち』というお芝居は、結構上演されている芝居のようですが、私は全くのお初でした。とにかく2人の女中の絡み合いがメインで、(途中、奥様の登場がありますが)ノンストップ100分だから相当量の台詞。これがまた、初めから終わりまで「どこまでが本当?どこまでが作り事?」という話を延々続けるのだから、ストーリーを追うのはなかなか大変。


あらすじ:姉ソランジュ(植村)と妹クレール(林)は、二人だけで夜な夜な”奥様と女中”ごっこをやり、普段の惨めな境遇を呪い、鬱憤を晴らしている。奥様の一見優しいけれども毒を含んだ言葉は、クレールの自尊心をひどく傷つけていた。ある日、クレールは偽の密告文書を書き上げて、旦那様を盗人として告発したが、本人が無実の罪から仮釈放されることを知り、ひどく動揺する。そして二人はやがて逃げ場のない思いから奥様(石飛)の殺害を企てるのだが・・・。


こんな風に受け取ったのですがどうでしょうか。とにかく人を欺き、自分を欺く、ような台詞がてんこ盛り。映画でも感じることですが、フランス人の場合は何か真理を伝えるために膨大な言葉を使うのではなく、「言葉を話すこと自体」が目的なのだろう、と思ってしまうのです。ゆえに本心は霧の中、見え隠れしてはまた深く深く沈んでいく・・・。とてもしたたかで、まともには太刀打ちできません。

【 芝居の楽しみ 】


そんなことはさておき、「林勇スペシャル・コース」は私的にはとてもデリーシャスでございました。私は、この小さな芝居小屋いっぱいに充満する林さんの余韻、相変わらず硬軟取り混ぜての強引さで(笑)目を引く演技力と歌うように語る膨大な台詞廻しが心地良く、クラックラッと酔いしれてました。女役をやってる時の彼には、ごく自然に”古風な、気高き女性”が色濃く漂うのですが、そこが堪りません。


時に激情に駆られて狂女のように振舞うかと思えば、恐怖におののきながら、「ソランジュ・・・お姉さん・・・」と気弱に語り始める時の消え入りそうに儚げな姿、その浮かんでは消えていくいくつもの表情には幻惑されました。林さんの演じたクレールは、根底に恐れと哀しみを抱えて生きて、そんな自分を支えきれなくなって破綻する一歩手前ギリギリの女性なのかもしれません。


更に、あの小作りの肉体、無造作な前髪が浮かんだ額、流れる汗、足を踏ん張った時のふくらはぎの筋肉、鎖骨まで出た胸元、白いシミーズ姿から黒タイツを勢い良く引き伸ばし、黒い女中服へ着替える時の手慣れたしぐさ・・・全てにこの上ない感動を覚えてました。我ながら、なんて変態チックな楽しみ方。。。ああ、シアワセ(笑)。


トドメのごとく現れ出でたるたるは、豊満な金髪美女*2の石飛さんの奥様!想像以上の可愛らしさで無邪気に猫撫で声で甘えるかと思えば、時折コロッと残酷で傲慢な素顔を覗かせる、その姿には文句ナシにシビレました!この奥様に毒入り*3ハーブティーを懸命に飲ませようと作り笑顔でかしづく林クレールは、信じられないくらいプリティーで崩れ落ちそうに・・・。


終わり方もちょっと夢か現か分からないような不思議な味わいで、決して楽しいという芝居ではないけれども、めくるめく林ワールドを堪能できて有意義な観劇になりました。観終わって「自分は、これを待ってたんだ!」というのが逆に分かったほどです。林さんのみならず、石飛さんの秘めた魅力(パワー)を再認識できて楽しかったですねー。叶うなら、もう一度あの奥様に会いたーい!!


※余談ですが、楽日には客席に山本芳樹さん、と懐かしの(涙)鶴田浩一さんの姿がありました。

*1:黒のセパレートタイプのスカートを穿いた

*2:肩を大胆に出した濃ピンクのロングドレスにボブヘアの鬘姿。

*3:中身は大量の睡眠薬、という話ですが。