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雅・処

好きな俳優・映画・演劇などエンタメ一般やスポーツについて自由に語ります。

宝塚花組『ファントム』観劇記(1)

宝塚 春野寿美礼

寿美礼ファントム、可愛い・・・


これが現在東京宝塚劇場で公演中の花組バージョン「ファントム」を見ながら、何度も口からこぼれた言葉です。こんな単純明快すぎる感想でいいのかしら?・・・と思いながらも、再演で復活したオペラ座の怪人、ファントムことエリックの心の中には、”愛を求めてやまない、いたいけな少年”が住みついていました。


前回の宙組バージョンからの再演ということで、見せ場なり、印象深いシーンはいくつか覚えていました。そして、曲の印象はそれほどなかったにも関わらず、いざ再び歌われてみると「ああ、確かにこれは前回聴いた曲だわ!」とかすかな記憶が蘇ったりもしました。しかし細部については、忘れた場面も多く、生まれ変わった花組バージョンはかなり新鮮に目に映りました。


世を恨み、人を憎み、心を閉ざしているファントムというイメージでいくのか、と予想していたのですが、実際の春野寿美礼ちゃんは、もっと脆くて危うい、「誰かボクを愛して!」と心の中で叫んでいるやたらとマザコンの・・・いえ情愛の深い(笑)怪人でした。この役作りはかなり意外で、それだけに母性本能をくすぐられまくりでした。


このところ、たまに「一人で芝居してないかな?」という感じが強かった寿美礼ちゃん。声の張り上げ方も時折、ちょっと強引で乱暴にまとめたり、アラが気になっていたのですが、今回は自分の声を完璧にコントロールしきって、妙なクセを出さずに素直に歌い上げていたのがより感動を呼びました。元々語るように歌いあげ、歌唱力に説得力が充分備わっていて、「大変よく出来ました!」(笑)な出来でした。

【初演と再演のイメージの違い】


オペラ座で事件を起こす、亡霊ファントムのおどろおどろしいイメージよりも、暗闇の中で一筋の光を求めている、悩める魂、をエリックに感じました。また生まれて初めてクリスティーヌへの愛を知った喜びをひそやかに優しく、情感を込めて歌いこむ寿美礼ちゃんの姿はとても麗しく目に映りました。


「醜い姿であっても美しい魂だけは、愛する人に受けとめてもらいたい。」クリスティーヌの求めに応じて仮面を取るエリック。諦めたはずなのに、とうに分かっていたはずなのに、一縷の望みをかけてさらけ出した己の素顔を、非常にも拒絶され、絶望の一瞬が訪れた時のむせび泣くような歌唱がたまらなく切ない。


圧巻は、宙組上演後も語り継がれたほどの名シーン、実父キャリエールとのデュエットシーンです。樹里咲穂ちゃんのキャリエールもそれはそれは素晴らしかったですが、幾分地味で堅実で、いかにも若気の至りを犯しそう・・・なユミコちゃん(彩吹真央)のオヤジぶりもイカシてました。


(これは想像ですが)私生活では、ベタベタした関係の無さそうな寿美礼ちゃんとユミコちゃんは、”歌声”でお互いを確かめ合うことができる稀な間柄に思えます。銀橋に乗ってお互い向き合って歌いだすとまさにそこは運命共同体か、はたまた恋女房か。歌詞や台詞を的確に伝える一方で、二人にしか通じ合えない秘密の会話をしているように見えます。


そういう特別な関係というのは狙ってできるわけではなくて、寿美礼ちゃんのユミコちゃんへの熱い信頼と、ユミコちゃんから寿美礼ちゃんへの尊敬の念が交差し、二人のビロードのような低音ボイスの中にどこまでも深く重なり溶け合っていくようです。以前にも書いたことがありますが、二人の声はまるで相思相愛だと思えてしまうのです。


クリスティーヌ役の桜乃彩音ちゃん。今回驚くべき進歩を見せたのは、彼女が一番かもしれません。まだまだ固まりきってない危なげな部分もありましたが、新進オペラ歌手として人々の喝采を浴びる歌姫役を体当たりで演じていました。可憐さもどこか芯の強いお嬢様風な気品も併せ持ってて素材は良いので、ますます上達して欲しいです。


フィリップ役のマトブン(真飛聖)は、ハッとするほど綺麗に見えることが多かったです。残念ながらあまり面白味のない役どころで勿体無い使い方になってしまいますが、「遊び人の本気の恋」を感じさせる一途さが漂っていて、クリスティーヌは将来フィリップと結婚して幸せになりそうだなあ、と勝手にその後を想像してしまいました。


それにしても、儚げで’可愛い’エリックとフィナーレナンバーの大階段でバシッと決める大御所春野寿美礼様が同一人物とは思えません。またデュエットダンスの「トゥーランドッット」を聴きながら、寿美礼ちゃんがイナバウアーしたらどうしよう、と思っていたのは私だけでしょうか・・・?*1


Phantom: The American Musical Sensation (1992 Studio Cast)

Phantom: The American Musical Sensation (1992 Studio Cast)


 宝塚版で使用されているアーサー・コピット作の「ファントム」のオリジナルCDです。良く見るとポスターにもジャケットのマークが入ってますね。

*1:荒川静香さんが金メダルを獲得したときのバックミュージックでした。