雅・処

好きなアイドル・俳優・映画・演劇などエンタメ一般やスポーツについて自由に語ります。

和洋折衷なミュージカル『マリー・アントワネット』

このままお蔵入りになりそうなネタだったのですが(汗)、折角なのでアップします。先日、帝劇でイープラス会員貸切公演で千秋楽直前の『マリー・アントワネット』を見てきました。何かと日本人に馴染みの深いマリー・アントワネットという人物が主役、しかも宝塚スター時代の涼風真世さんの歌声にシビレれてる(但し現役時代はナマで見ていません)私としては、「機会があれば見たいなあ。」と思っていました。


しかし、もっとも興味を引いたのは、この作品が、あの『エリザベート*1を作ったミヒャエル・クンツェ(脚本)&シルヴェスター・リーヴァイ(音楽)のコンビの3作目だというのが一番の要因です。蛇足ですが、私の中でこの「エリザベート」というミュージカルは、ほとんど奇跡に近いような作品です。ストーリー性、キャラクターで目を引き、トドメは奇跡的なほどに美しい曲が凝縮されており、まさに↓


 この作品を見ずに人生を終えれば一生の損!


あまりに感動したため、その後も、産みの親であるクンツェ&リーヴァイコンビの2作目の『モーツァルト!』も見ました。この時は、初主演で彗星のごとく現れた中川晃教君のパワフルな歌唱に圧倒されたものの、芝居自体にはあまり感銘を受けませんでした。ストーリーはやや単調な印象で、その昔、話題になった映画「アマデウス」に比べると、スリルやドラマチックさが物足りなく思えました。

【いざ、マリー・アントワネットへ】


そして今回の『マリー・アントワネット』。正直あまーり期待してはいませんでした。*2しかし、実際に見てみると久しぶりの帝劇で大作ミュージカルという仰々しさが、まず楽しい。そして当たり前ですが、登場人物が歌が巧い。特にベテラン〜中堅どころの男性陣の歌はどれもこれも安定していました。中でも「歌が巧いって?何を今更・・・祐サマ(笑)」な山口祐一郎さんは別格。


その歌をナマで聴いたのは、『モーツァルト』に次いで2回目でしたが、カリオストロ*3で聴かせる抑えのきいた柔らかな高い裏声にはシビレる魅力がありました。どこにいても圧倒的な存在感、舞台栄えのするタッパと甘いマスク、更に舞台挨拶ではイープラスの旗を振って客席を盛り上げる”お茶目なカリスマ”ぶりで唸らせられ、祐サマの凄さを体感。ミュージカルファンの友人達から散々逸話は聞いていますので、偉大なミュージカル俳優でありながら稀有な面白キャラぶりににんまり。


対する女性陣は、主役マリー・アントワネット役の涼風さんと、虐げられた庶民の投影であるマルグリット・アルノー役新妻聖子さん(Wキャスト)の対比くらいで、ちょっとバランス的に弱い。新妻さんは、声量とミュージカル女優的な歌唱力の面で不安はなかったのですが、若さのゆえか「限界に挑戦!」的な必死さや力みが感じられたのと、率直に言って、並み居るベテラン勢の中でとても地味に見えてしまったのが残念。


幕が開いて40分近く、マリー・アントワネットへの憎悪を募らせていくあたりの心理描写が長い割にはどうにも薄っぺらく、貧民街で必死にあがいて生きている様子が一人相撲に見えてしまうのです。(これは脚本に問題があるような・・・)このまま、最後までいったらどうしようか(汗)、と心配になるほどでした。


一方の涼風さんは、ミュージカル女優としては高音の伸びが弱い感じです。やはりよく響くのは、宝塚で鍛えられた?中音〜低音にかけての魅惑のボイス。芝居のほうでは、牢獄でルイ・シャルルを連れ去られ、断頭台へと”死の階段”を登っていく時の気高くも哀れな王妃を、まるで本人の魂と一体化してるかのように、演じきっていて感銘を受けました。ただ、体つきも華奢で、繊細さも併せ持つ涼風さんはアントワネットには・・・どうかなあ、と。

【日本製ミュージカル】


ミュージカルという舞台というのは、普通の芝居に比べるとゴージャスな音の厚みが加わる分、本当はとても怖いものだなあ、と思わされました。そのステージに独りで立って歌った瞬間に判定が下されるのです。「よく頑張ったね〜」というレベルではなく、どれだけ役の本質を曲に転嫁させて歌えるか、どれだけ他の人に負けない光を放つか!なんとなく日本の場合は、完成させすぎるのを嫌うためか、芸術にもエンターテイメントにもなりきらない中途半端な人選でお茶を濁すことが多い気がします。


「マリー・アントワネット」という作品は、日本人演出家の栗山民也氏が手がけてしますが、まったくもって和製ミュージカルという感じでした。たとえドイツ人の著名音楽家の歌を全編散りばめていようと、なんだか随所に”浪花節”が漂います。台詞も演技も日本人向けに分かりやすくしようとしすぎるあまりに説明過多になってるからかもしれません。実際には、マリー・アントワネットほど日本で知られている歴史上の人物はいないのではないかと思うのですが。。。(ちなみに原作者が遠藤周作氏なので、それが大きいのかな?)


その点、「エリザベート」はなかなか不親切な物話(笑)でした。ほとんど観客がハプスブルグ家のことなんて知りやしない、しかし、作り手側はそんなこと知ったこっちゃない!で、突き進んでいたのですが、それでも台詞の代わりに歌詞だけで充分に伝わったのです。対して「アントワネット」のほうは、曲も総じて面白味に欠け、芝居の内容も”芯”がない感じで、大作ミュージカルにしては若干荒削りの印象がありました。


さらに、アントワネットが牢獄で最後にフェルゼンと再会するシーンはまるで”宝塚版ベルばら”・・・と、悲劇性を高めるのにはむしろ逆効果になった気がします。宝塚版のほうは、牢獄にいる子供達の存在が薄く、アントワネットは最後まで”一人の女”として見えるのですが、東宝版では、子供達の前で熱いラブシーンを演じる・・・それってあまりに節操なしに見えるじゃありませんか?いっそ、二人で手を取り合って、

 愛、それは哀しみ〜♪

とか歌ってくれると良かったのですが(笑)。なにやら書き出すと妙に否定的な感じになってしまうのですが、実はこれでも結構楽しんでいたんです(いやホントに)。白髪姿でみすぼらしい格好になった涼風マリー・アントワネットの全身から匂い立つ”神々しさ”を見れただけでも一見の価値あり、でしたから。。。


このミュージカルは、今後独ブレーメンでロングラン公演をされるそうです。和製ミュージカルをどのように作り変えて舞台に乗せるのか、ちょっと興味がありますね。


王妃マリー・アントワネット〈上〉 (新潮文庫)

王妃マリー・アントワネット〈上〉 (新潮文庫)


こちらが原作本です。

*1:現在も宝塚で絶賛上演中!ですね。

*2:長い公演回数を重ねてきて、あまり話題になってるようでもなかったので。

*3:実は物語のカゲの主役・・・と思ったら本主役でした(笑)。