雅・処

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スタジオライフ『孤児のミューズたち』観劇記

思い出は、はるか昔になりにけり?

もう1ヶ月近くも経つのに感想が書けないで苦悶していたのは、スタジオライフのジ・アザー公演、『孤児のミューズたち』です。劇団のベテラン役者を揃えた4人芝居で、両国シアターX*1でやっていた舞台でした。カナダはケベックを舞台に、幼い頃、母に捨てられた娘3人と息子1人の家族劇。


ミシェル・マルク・ブシャール氏の脚本は、完成度が高くまたしても唸らせられました。最愛の母親に捨てられ、心に傷を負ったまま大人になった子供達が、激しくぶつかり合い、時に労わり合う様が出色の出来でした。この私を過去、代表作『LILIES』で恍惚の海にさっていってしまった(笑)作家のブシャール氏は、今回の作品でも厳しい現実をリアルに浮き上がらせつつも、どこかしら夢のような異次元世界を作り出す作家だなあ、と感心しました。


芝居を見る前にキャストの一人である坂本岳大さんが自らのブログに書いていた「家族ものはイタイ」というコメントが最初から最後まで頭を離れませんでした。家族が主題の話というのは、どうにもできない宿命的な”痛み”を感じさせるものが多いと思います。


どんなに純粋に人に優しくありたい、と願っていても家族間のしがらみの中では、ありのままの自分がさらけ出され、時には残酷に傷つけあってしまうからです。心の底には、愛や憎しみなどの原始の感情が渦巻き、血を分けた肉親だからこそに、それも一層深まってしまう。

【小さな家族の大きな葛藤】


登場人物は女3人、男1人の4人姉弟。教師として生き、好き勝手に生きている妹弟達に少々匙を投げてる、生活に疲れた長女カトリーヌ。軍人だった亡き父親の後を追うかのようにドイツで将校をしている次女マルティーヌ。モントリオールで悠々自適、10年間も未発表の本を執筆している”自称”作家のリュック。アルバイトしながらも知恵遅れで小さな単語帳に言葉を書き続ける末っ子イザベル。


4人の境遇には、”普通”ではない性癖もあります。独身ながら村中の男と関係を持つカトリーヌ、レズビアンのマルティーヌ、家出した母に冷たかった人々への復讐と言って、母親の服を年中着ているリュック。末っ子イザベルも、魅力的に成長し女盛りを楽しんでいる風です。いわば誰一人「まとも」とは言えない。しかし、彼らの姿は、暗い過去に打ちのめされながらも、息苦しい小さな田舎町でなんとか自分に正直に生きようともがいているかのように見えます。


物語は、家族の中で”死んだ”と思い込もうとしていた母が30年ぶりに突然帰ってくる、という事件で、子供達に混乱が巻き起こるさまを描きます。自分たちを捨てた恨みや憎しみを口にし、激しい感情に翻弄される長い時間。それでも母をめぐる過去のエピソードを語りながら、浮かび上がるのは母への慕情と、支えあってきた姉弟同士の深い愛情。


果たして本当に母は帰ってくるのか・・・再び去り行くのは誰か。もたらされた意外な結末に、朦朧とした頭で「家族の再生の物語」ということを実感した物語です。

【実力派のぶつかり合い】


若手が主役をとることも珍しくなくなった昨今のスタジオライフで、このジ・アザー公演ほど楽しみなものはありません。ある程度キャリアを積んだ役者を中心にそえ、味があってジックリ作品と向き合った芝居が期待できるからです。今回も、まさにジ・アザーらしくいぶし銀のような作品でした。4回見ましたが、どうにも見たくてたまらなくなる作品、というわけではないけれども、ラストに希望があってじんわりと余韻が残っています。


「こんなオバさんいるよねえ~。」と共感しあったのは、カタブツで生活に疲れたような楢原さんのカトリーヌ。対して「適度に生き抜きもしてなきゃ、やってられないわ」的な(笑)岳大さんのカトリーヌもなかなか素敵でした。いつもハッチャケて笑い上戸の倉本さんのマルティーヌはとてつもなく優しく慈愛に満ちており、逆に普段は”ライフ一女性的”な石飛さんは恐ろしい軍人女と化していて驚きました。


黒一点のリュックは、女装してもガサツな男の子らしい小野くんと、”女役のクセ”があるのか、どことなくフェミニンな岩崎大ちゃん。技術的にはやや難点がある小野くんですが、今回は今まで見たことがないほど堂々とした演技を見せてくれました。舟見ちゃんの休演により、シングルキャストとなったさんは、その持ち味を全て出し切ってのめり込んだ演技を見せてくれ、至極満足。


林勇輔の女役を、餌として生きながらえている私(笑)としましては、演技や表情はもちろんのこと、客席でも恍惚として凝視しております。特にロングヘアの鬘&ワンピース姿のイザベルに可愛い笑顔で振るまれるとちょっと尋常ではいられず、ヘロヘロに・・・。キュンと引き締まったふくらはぎは、今回も私を魅了しましたし、ずぶ濡れ姿で足を踏ん張った時に黒靴に落ちた水滴には、不思議な神々しさがあって、ひざまずきたくなるほど。(いけない、また変態モードに!)


何より良かったのは、「La Paloma」のメロディーに乗って、感情を吐露する子供時代の回想シーン。古びたオルガンの素朴な音の中、円を描きながら軽やかに激しく舞う林さんのカンカンと響き渡る靴音とおよそ上手とは言えないものけれども、泣きそうな顔で歌い上げる役者達の声のハーモニーに胸を締めつけられました。


千秋楽の挨拶で、イザベル役を演じられた幸せに頬を上気させ、稽古も楽しかったと顔を輝かせていた林さん。客席後方へ顔を向け、珍しく自分から「またやりますよね、倉田さん?!」と再演のリクエストをしていました。「脚本を読んだ時はちっとも面白さが分からなかった。」と率直すぎる感想が爆笑をさらった小野君ですが、芝居が始まると徐々に取り付かれていったそうです。


本来稽古好きの楢原さんですら「この稽古は辛かった・・・。」と語るほど、役者にとっても濃密な芝居だったようです。締めの言葉を語る倉本さんも「この芝居から抜けきるのにまだ時間がかかりそう。」と充実感につつまれた表情で語っていたのが目に浮かびます。



劇中で何度もリフレインされていた、「la paLoma」。曲名は、こちらのブログ(ふうの翻訳劇場 孤児のミューズたち~ラ・パロマ編~)より、参照させていただきました。(多謝)


孤児のミューズたち

孤児のミューズたち

原作本はこちら。

*1:この界隈、上演期間中は、夏祭りでなかなか風流でしたね。