ボーイソプラノの名曲集
風邪で体調不良の中、劇団スタジオライフの『死の泉/パサジェルカ』2本立て3公演をまとめて観劇してきました。舞台の観劇記は、気力体力減退気味のため、次回以降にまとめて書こうと思います。
まずは、『死の泉』の挿入曲から。この芝居(原作も)では、ボーイソプラノやカストラート*1といった、私の非常に好みの題材が大きな役割を占めているので、当初から非常に興味深く見ることができました。7年ぶりの再演ですが挿入曲はあまり変更がなかったようです。
一番最初に流れたボーイソプラノは、「メンデルスゾーン/鳩のように飛べたなら」、次に聴こえたのは「モーツァルトの子守歌」(フリース作曲)。どちらもウィーン少年合唱団(またはレーゲンスブルク大聖堂聖歌隊?)の団員のソロではないかな、と。
やたらと聞き覚えのある可愛い感じの声で、'70後半~'80年代頃の録音かな、と思いCDを探してみました。同じ曲は録音がいくつもありますが、シンプルなソロバージョンはなかなかヒットするものがなく、「子守歌」はこれかな?というのを1枚見つけました。(このエントリーの最後に記載)
中盤以降、エーリヒの歌の訓練あたりで、流れる「モーツァルト/アレルヤ」は単独曲でも有名ですが、「エクスルターテ・ユビラーテ(踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ) KV.165」という長い曲の一節で出てきます。こちらは'60年代と'89にウィーン少年合唱団の録音があります。芝居で使われたのは、恐らく後者のほうですね。
それというのもCD『アレルヤ、春の声』にどちらも収録されており、ギュンターが聞く”ミヒャエルのボーイソプラノ”が「ヨハン・シュトラウス/春の声」だからです。しかも、これは絶対に間違えようがない(笑)マックス.E.チェンチッチの歌声 。'89年来日したウィーン少年合唱団のソリスト*2で、伝説の名ボーイソプラノ(現カウンターテナー)です。まさに私の目の前で歌われたソロ「春の声」は、当時かなりの衝撃でした。
「死の泉」の主題曲と言えるのは、ラクトウシュの『黒い瞳』。これは、7年前の再演時にも、かなり話題になったのでCDで購入済でした。劇中では、「Ochi Chornyje(黒い瞳)」はもちろん、「CSARDAS」「シンドラーのリスト」などもかかっていた気がします。ラストのクライマックスで流れるあの躍動的なヴァイオリンは忘れられません。
【最後のカストラート】
クラウスの要望により、マルガレーテが居間で蓄音機にかけるレコードは、アレッサンドロ・モレスキ(ALESSANDRO MORESCHI 1858-1922)の『THE LAST CASTRATO』より”ROSSINI/CRUCIFIXUS”という曲だと思います。実は今回、こんなにモレスキについて台詞があったっけ?と驚きました。
クラウスが語っていたように、彼は「最後のカストラート」であり、その貴重な録音はCD化されており、手元にあります。但し、「録音当時、70歳を超える老人だった・・・。」というクラウスの説明には間違いがあり、1858年生まれで1904年の録音ですから45歳前後の歌唱です。
歌詞カードからちょっと拾い読みをしたら、'58年ローマ生まれで12歳頃から音楽教育を受け、25歳でシスティーナ聖歌隊に所属したようです。なぜ去勢されカストラートとなったかは、諸説あって不明です。当時すでにカストラートは、歴史の遺物となって、全盛期の面影もなかったでしょうし、CDのモレスキも最盛期を過ぎた40代、まして低い録音技術なので、名歌唱には程遠いと思われます。
このCDには、個人的にいわくがあります。やはりボーイソプラノ好きの友人Mさんが、カストラートの録音に興味を持って購入し、私に貸してくれたものだったのです。しかし、聴き始めてみると、鶏を絞め殺したような気味の悪いソプラノに惧れをなし、持ち主Mさんに何度か返そうと思ったものの、彼女も「悪い夢見て、眠れなくなりそうだから・・・」という理由で、受取拒否(汗)。そのため、いまだ我が家の棚深くに眠っておりました。
モレスキ氏には失礼極まりなし、と謝らねばなりませんが、カストラートが人道的に禁止されたのも分かる気がするな、とこのCDを聴いて思ったものです。カストラートについては、『カストラート』という映画が大ヒットした時に、かなり関係書籍も発売され、幻の小説『ポルポリーノ』も発売されて狂喜したものですが、ボーイソプラノファンとしては、とても興味をそそられる存在です。
ちなみに映画『カストラート』はファリネッリという歴史上、最も成功したカストラートを主人公としており、映画の中で彼と敵対するヘンデルがその歌声の素晴らしさに”敗北”を感じて崩れ落ちるシーンで歌われた「涙のながれるままに」という曲に私自身、涙が止まらなかった思い出があります。
ボーイソプラノのまま、成人男子のもつ肺活量と強靭な筋肉を武器に、オペラ界に君臨したという、恐るべき男性ソプラノ歌手・カストラート。もちろん、去勢という最も残酷な施術をされ、美しい声*3と引き換えに悲劇的な人生を歩むことも多かったと思われます。
しかし、どれほど非人道的、とそしられようと、麻薬のように人を酔わせた美声を聴いてみたかった・・・と思う私は息子達を改造しようとまでしたクラウスのボーイソプラノ偏執狂者の思いが身に染みて分かって怖いのです。
モレスキ氏の歌唱。結構、写真が残ってるんですね。恰幅が良すぎるんですけど・・・。
シンプルなピアノ伴奏のソロで歌われる「モーツァルトの子守歌」。参考サイト:アレッサンドロ・モレスキ - Wikipedia
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