雅・処

好きな俳優・映画・演劇などエンタメ一般やスポーツについて自由に語ります。

’08スタジオライフ『死の泉』観劇記

迫力と感動が薄まった再々演

今回の観劇記は、本気で長文です(汗)。あしからず。

待望の再々演であった「死の泉」。言わずと知れた皆川博子さんの傑作ミステリー、かつ第二次世界大戦ナチス・ドイツの世界へ、どっぷりと浸ってくる予定でした。しかし7年前、あの怪しげな歌舞伎町のネオンの下をかいくぐり、地下へ降り立ったシアターアプル*1の芝居小屋で味わったなんとも言えない余韻は、明るいライトの瞬く銀河劇場にはありませんでした。


あらすじ:ナチスドイツが勢力を誇った戦時下、マルガレーテは愛国心に燃える青年ギュンターの子を宿し、レーベンスボルンという名の施設へとやってくる。そこで看護助手として働きながらも、生粋の”アーリア人”を増やすという名目でポーランドからさらわれた少年フランツと美しいボーイソプラノを持つエーリヒと出会う。やがてエーリヒの声に心を奪われて、養父になりたいと願う医者クラウスに求婚されたことから、自分が産んだミヒャエルを含め3人の母親となるマルガレーテ。敗戦に向かって人々が困窮していく最中、選ばれた擬似家族の一員として”ひとときの幸せ”の中にいた彼女のもとにヒタヒタと恐ろしい不幸が近寄ってくるのだった・・・。


休憩を挟んで第一幕は、戦時中のドイツ。主人公マルガレーテと生殖に関する怪しげな秘密実験を行っている医者クラウスとの出会いと結婚、そして彼らの養子となったフランツとエーリヒ、そして一見恵まれた幸せな家庭に嫉みを持ちながら、家政婦として近づくマルガレーテの元同僚モニカを中心とした展開。


第二幕は一気に15年後、アメリカへ亡命したクラウスとギュンターの出会い、成長したフランツ&エーリヒがクラウスの実子ゲルトとの出会うことで、ギュンターとマルガレーテ、ミヒャエルの出会いなどを軸に複雑に、人間関係が再び絡み合い、過去への旅を通して全ての謎解きが始まるという息もつけない展開。

【変わってしまったところ】

ストーリー自体の面白さ、個性的な登場人物、荒唐無稽でありながらも破綻していない物語設定、最後のどんでん返しまで芝居としての面白さは存分にあります。それゆえ、スタジオライフBEST3の一作として長年再演を心待ちにしておりました。


確かにその面白さは変わってません。しかし、細かい演出の変更や”フレッシュな顔ぶれ”により大幅にリニューアルされた結果、かつての「死の泉」が持っていたまがまがしい退廃美や重厚さ、立ち込める悲劇性は大幅に薄まってしまったようです。


私が「あれ?」と思ったのは、ミヒャエルの全裸シーンがなくなったとこ。いや別にエロっぽい興味(笑)があったわけではないですよ。ポスターにあった舟見君のヌード写真は一体何?ってことです。それこそ、ギュンターが”我が子”ミヒャエルの健康体(去勢されていないこと)を確認する重要なシーン、だったはず。フライングなのか、意図したカットなのか・・・。自然とギュンターとミヒャエルの血の絆みたいなものを感じられるシーンだったのですが。


そしてラスト、扉の大爆破シーンの後に双子のレナとアリツェ(リロ)のシーンが追加されていたのにも驚きました。これは初演でもあったシーンらしいのですが、「台詞がちょっと違っていた?ような気がします。」と初演を見た友人の話でした。多少の変更は、当然あり得ることでしょうが、結果的に演出を更に薄められたような感じが否めません。

【狂気がフツーに・・・嘆きの配役】

そしてキャストの変更、これは最後のトドメでした。外部公演への流出で、ややスカスカ感漂う役者陣をそのままに、「パサジェルカ」というダブル公演で稽古の比重が半分に*2、すでに”戦い”すら放棄してますね。決して役者が手抜きをしたわけではないにせよ、役を掘り下げて自分のものとして深めていく時間が全く足りなかった気がして気の毒です。


一番の痛手は、クラウス役でした。甲斐さんが客席で観劇した後、自ブログで「演じたかったなあ~」なんて書いていて、私は本当に辛かったです。クラウスは、甲斐さんの当たり役中の当たり役じゃないですか!あの狂気、あの威圧感、何を考えているのか得体の知れないその不気味さ、それがない「死の泉」はすっかり毒を抜かれきってしまった・・・(涙)。


クセありすぎな山本クラウスはともかくとして(笑)、演技巧者の山崎さんですら、ちょっと変わった性癖を持つけど”愛妻家”、にしか見えない。良いダンナすぎなんです。「マルガレーテさん、お幸せね!」って言いたくなっちゃうんですもん。全然、不気味さが不足しまくりです。


ヒロイン・マルガレーテの三上君、頑張ってました。娘役専科の彼が、母に初挑戦。不安も大きかったと思いますが仄かな色気があって、男心を奪うだけの美貌もありますね。ただし、基本は「お育ちの良い、世間知らずの娘さん」といった感じです。本人の持つ特性でしょう、やっぱり三上君は素直な良い子なんだろうなあ。


それに比べると前回の岩崎マルガレーテは、常に殺気を漂わせてて怖かった(笑)。意地っ張りで、息子のためなら死に物狂いで、運命に翻弄されながらも、どこか凛とした気丈さがあって、モニカの嫌がらせに全然負けてないような逞しさを持ち合わせてました。


マルガレーテのかつての恋人、赤ん坊ミヒャエルの実の父船戸ギュンターも、”友人”を売ったことに強い負い目を感じてるようには見えなくて、正直者の良いオジサマだったし。正気でないマルガレーテを抱いて「愛してる」と呟く時や、少年ミヒャエルへの包容力はさすがに船戸さん!って感じでしたが。


仲原ヘルムートは、嫌でも高根さんの印象が強すぎて、強引さや色気がとてもつもなく不足して見えました。ゲルトへの拘りに説得力がないから、何にでも首を突っ込みたがる、好奇心の強いだけの兄ちゃんなのかな?って思えてしまう。観客は、ヘルムートとゲルトが、途中から”只ならぬ仲”だったって、気付いたでしょうか?


高根フランツも曽世フランツも、素敵なんだけど、ただ復讐心にひた走るヒーローっぽくて、フランツの複雑な悲しみはあまり伝わってこなかったです。やっぱり笠原フランツが忘れられない。舞台のあちこちに亡霊のように浮かんで見えたほど、たまらなく笠原さん*3が恋しかった・・・。「マルガレーテ、あなたには(ミヒャエルが)分かるんですね。」と、搾り出すように吐き出した台詞が脳内に響く。


ラスト物凄い形相(笑)と勢いで走り込んできた岩崎マルガレーテとガッシ!と力強く抱き合うラブシーンの残像までアリアリと浮かび上がってきて。ああいろいろ細かいシーンはとんでても、7年間、これだけは忘れてなかったんだ、と自分でも感動を覚えたほどです。


小野君は見せ場もあって熱演してましたが、エーリヒの声と中性的なムードが全くないため、私の中では一番のミスキャスト(ごめんなさい)でした。及川エーリヒが、性を超越した存在感を見せ付けたからこそ説得力あった役ので。

【なかなか良かった人達】

一方、青木モニカは、及第点。石飛モニカが大好きでしたが、さすがは徒弟?だけあって、ヒロインイジメの性悪女ぶりは楽しかったですし、石飛さんより若さと躍動感、ちょっと同情を感じさせるような可愛らしさも感じました。モニカの非業の死も、ちょっとリアルさが少なくて衝撃は薄まりました。負担に感じないから、余韻が薄いのの一因にもなりましたが。


吉田君は身びいきなので応援しちゃうんですけど、そりゃあブリギッテは山崎さんの「クラウスゥ~」には、適いませんって(笑)。あわよくばクラウス夫人の座を狙う女丈夫としては、迫力不足ですけど、とにかくハツラツぶりが可愛かったし、ちょっとお茶目で憎めなかったです。


おかっぱパウラは、制服女優で名高い佐野さんに変わって、牧島君が登場。独特の存在感と何をやっても安定感のある牧島君は、女役でも男役でも素敵です。ホント、イイナ、マッキーは。最近あまり本公演で見てない気がするので、舞台にいるだけで安らぎます(笑)。


ゲルト役の荒木君も、ハマリ役に見えました。もともと自由度が高い役なのかもしれませんね。クラウスに不信感を抱いていて、好まざる状況に追い込まれてしまう、ウンザリ感を実に自然に演じていました。篠田君のニコスもちょっととぼけた言動、愛嬌があって楽しかったです。


深山エーリヒはさすが、ライフきってのベテラン子役(笑)だけあります。深山君の少年役は、もうどこも非の打ちどころがない邪気の無さが抜群。10年も同じ役やってるんだから、完成度の高さは素晴らしいです。何も知らない幼い顔で、実は全てを見透かしているような賢さ、まで匂ってくるかのよう。

【奥田フランツ、万歳!】

そして、今回最大のブラボー賞(笑)は、奥田君の少年フランツ。かつて演技派・楢原さんが演じたフランツは、子供でありながら老成した”一人前の男”でしたが、奥田君のフランツは、精一杯背伸びをして「僕が皆を守るんだ!」と信念のように自分に言い聞かせています。その反面、誰よりも傷つきやすく、揺れ動く繊細さを隠しながら儚げな笑顔で微笑んでいる・・・そこにサガを感じさせて涙を誘いました。


クラウスからの信頼を誇りにし、マルガレーテを母として敬愛し、大好きな血の繋がらない弟・エーリヒを守ろうとし、ミヒャエルを愛すが故に・・・人一倍、深い哀しみを背負うことになり、自分をも許せなくなってしまう一人の少年を、奥田君にしかできないやり方で、完全に表現していたことに大感動。なんだか奥田フランツが出てくるだけで目頭が熱くなって大変でした。


奥田君が演じる役は、それこそ数十と見てきましたが、フランツは、本当にマイベストでした。マルガレーテへに対する愛が、”異性の愛”というよりも自分を信頼し、庇護してくれた初めての女性としての強い愛、という風に見えたことも素敵で、青年フランツに変わって寂しさを覚えるほど・・・。


舞台写真は迷わず奥田フランツの笑顔を!これこそ、観劇で味わう幸せってものですね。それにしても名作「死の泉」のこの薄まりを思うと、次の次に控えし「LILIES」がどんだけ薄くなるのか、恐怖すら覚えますが、今回の奥田君のようなハマリ度を見せる役者が出ることを願って。。。


死の泉 (ハヤカワ文庫JA)

死の泉 (ハヤカワ文庫JA)

出版当時、その年のミステリー大賞に選ばれただけあって、面白い作品です。そこはかとない人間の心の奥の怖さも描かれております。


miyabi2013.hatenablog.com
miyabi2013.hatenablog.com

*1:新宿コマ劇場の解体により、閉鎖されることになっています。

*2:主要キャストはどちらの作品にも主要な役どころで出ていたり

*3:私が観劇した日、ちょうど舞台を観劇にいらしてましたが、アナタはステージに居て下さい!と思ってしまいました。