雅・処

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『おくりびと』 アカデミー賞外国語映画部門ノミネート作

久しぶりに見たい映画が重なって、日本映画のハシゴをしました。まずは昨年からロングランになっており、感動作として評判が高かった「おくりびと」を。いつか見よう、見ようと思いながらも、日に1度の上映というローテーションのため、機会を逃していたのです。


一旦は、ビデオ化まで待つか、とも思ったのですが、つい最近、アカデミー賞外国語映画部門ノミネートで話題になったということもあり、スクリーンで見たくなりました。そんな輩は多かったらしく(笑)、小さな劇場内は満員御礼(特に高齢者で・・・)。*1


言わずと知れた本木雅弘さんが主役で、オーケストラのチェロ演奏者から納棺師となっていく成長物語です。東京から実家の山形へと帰郷し、予想もしなかった仕事に就いた主人公。小さな失敗・失望や壁にぶつかりながらも成長していく様と、死者を前にしたときに家族や周囲の人に起こるさまざまな感情の動きを丁寧に静かに描きだしています。時には、深刻な瞬間もコメディになってしまうところまでサービスが行き届いてて。


私みたいに「泣かせ」シーンでも、お約束のように涙してしまう(それどころかシーンによっては、ただの情景だけで泣いてしまうような)”空想肥大型泣き上戸”には、大変な映画となってしまいました。泣きすぎて頭と目が痛くなってしまう有様で・・・。納棺師という、あまり知られていない職業を題材をした斬新さが目を引きますが、泣き所のポイントがやまのようにあります。

【魅力を感じる点】


日本映画がもつ強みをバランス良く取り混ぜて見せてくれる手法に、カタルシスを感じてしまうのです。すなわち言葉ではなく、表情だけで溢れ出る感情を伝えてしまうところとか、普段感情を自分の中に押し殺しているものの、あるきっかけで、一瞬、素の自分をさらけ出し、深い悲しみや他人への思いやりの心を見せるところとか、私が邦画を好んで見る時のポイントが無駄なく網羅されています。


圧倒的な完成度の高さはもちろんですが、アカデミー賞候補に選ばれた初めての現代劇作品と聞いてナルホドと思った点がいくつかありました。「日本的でありながらも人間として普遍的であるテーマ」なんてもっともらしい評価もさることながら、時代劇にも通じるような”日本独特の”奥ゆかしい感情表現が、日本映画の原点回帰を思わせたのかもしれません。


おくりびと」で印象的だったのは、チェロ演奏の使い方ですね。田舎の風景の中で、主人公が心の平安を得た時に奏でる深い音色。ちょっとそれはヨーロッパ映画のような洒落たムードを感じさせました。もう一つの特徴は、随所に散りばめられている笑い滝田洋二郎監督とは、かつて「木村家の人々」という私にとって思い出深い映画を撮った監督だったことを知り、そのコメディセンスに頷いたものです。


全然タイプの違う映画なんですが、「木村家〜」は上映開始20分間ほどがちょっと神懸り的な作品(当時、想像を超えるブラックユーモアに度肝を抜かれた)だったので、映画の中での登場人物のキャラクター設定などに納得がいきました。特に、山崎努さん演じる社長あたりに、その独特のセンスが色濃く出てたような気がします。


なんて脱線しまくりですが、”納棺の儀”は、本当に神聖な儀式に見えました。形式の背後に美がちゃんと隠れていることにも感銘を受けて。最後に、「人が亡くなるって事は大変な出来事なんだなあ〜。」とつくづく実感しました。



「おくりびと」オリジナルサウンドトラック

「おくりびと」オリジナルサウンドトラック


チェロがメインのサントラは珍しいかもしれませんね。「アヴェ・マリア」の響きが素敵でした。

*1:東京では満員なんて珍しくありませんが、地方ではそうそうないのです。