雅・処

好きなアイドル・俳優・映画・演劇などエンタメ一般やスポーツについて自由に語ります。

映画『武士の家計簿』 淡々とした心地よさ

堺雅人さんの最新主演作『武士の家計簿』を初日レイトショーで見てきました。上映劇場は小さめだったのですが、レイトショーの割に意外と(失礼)観客が多かったので驚きました。大半が年輩、あるいは落ち着いた年代の女性(自分も含む)ですね。見る前から堺さんのインタビューも読んでいたので、ホームドラマのような時代劇だということは刷り込み済。


予想に違わず、チャンバラ無しの実に淡々としたストーリーでした。森田芳光監督作というと、『家族ゲーム』を思い出しますが、その頃は”若手新進気鋭”というマニアックに取り上げられていた記憶がある監督さんです。話題になった、この映画も私にはドラマのほうが印象深く、映画は率直につまらなかったという記憶が。


仲間由紀恵さんのインタビューを読むと、森田監督に(コメディタッチの作品のような)”過剰な表情”はしなくていいので。」と言われたそうですし、堺さんもトレードマークの微笑みを「笑顔少なめで」とリクエストされて戸惑ったようです。奇を狙った演出をしない方針が伺えますが、映画を見ると、劇的な見せ場が無いに等しく控え目すぎるほどの抑えた空気になんだか狐につつまれたような気分になりました。


映画的なカタルシスは”ゼロ”に等しいです。私が堺さんの顔を見ているだけで幸せ、というイタいファンでなければ、「これって楽しいのでしょうか?」と問いたくなるほど、淡々とした物語です。武士の付き合いで、比較的堅実な下級武士でありながらも家計が借金にまみれていく猪山家。まるで天文学的な借金を抱えていながらも他人事のように暢気な・・・どこかの国(笑)を連想させます。

【意外と知らなかった下級武士の暮らし】


子孫に借金を残さぬように、ソロバン侍の直之(堺雅人)が借金返済に尽力するのがこの映画の見どころ。とはいっても予告で分かるように、家財を売却するとか倹約に励むとか、一発逆転!的な隠し技はありません。むしろ、算盤を生業にする直之の愚直なまでも生真面目な性格と強い信念、息子成之への教育、猪山ファミリーの素朴な関係性を淡々と描き出しており、そこが一番印象に残りました。


中でも直吉と呼んでいた少年期の成之(大八木凱斗)との父・直之のぶつかり合いが面白かったですね。大八木君がまたべらぼうに可愛い(笑)だけに、家芸である算盤を叩き込むときの直之の厳しさが”不憫さ”に拍車をかけます。但し、それも子への愛情ゆえ(と推察)ですし、家族仲も良い一家なので全く悲惨には見えません。


物語の後半、時代が明治と変わる激動期の描写がやや説明調で駆け足になってしまったのが惜しかったのですが、猪山家の時の流れを淡々と傍観しているような、まったりとした落ち着きがある映画でした。逆にここまで余計な感情表現をそぎ落として、果たして大丈夫なのか、と心配になってしまうほど。


それでも不思議に飽きなかったのは、「ソロバン侍」の日常が他ではあまり見たことが無い、珍しいものだったからかもしれません。加賀藩の御算用者としての平凡な日常、お見合い結婚であるお駒(仲間)との睦まじい夫婦関係、藩の中でも現代のサラリーマンに近い、賄賂・罷免、出世劇なども織り交ぜてて退屈さを感じさせませんでした。


当時の帳簿の装丁や記載方法も珍しく見えましたし、袴儀の儀式とか冠婚葬祭、侍のお弁当などもあまりまじまじと見た記憶がありません。家に帰って、久しぶりに映画パンフレットも隅々を読みこんでしまったほど、ためになるプチ情報が満載でしたね。また驚いたことに、パンフレットはソロバン(横長タイプ)になってました。凝ってるな〜。


テーマとは別な意味で感銘を受けたシーンは、家財一式を売り払ってますます広々と殺風景になってしまった、猪山家。「ああ、あれだけモノを一掃出来たら、すっきりするだろうなあ〜」と捨てられない性分のわが家を省みてしまいました。

【何をやってもキマる男!?】


あまり笑うな、と言われたせいか堺さんの生真面目な表情もなかなか良かったです。唇をかみ締めて、ちょっと苦虫をつぶしたような顔の時もありましたけど(笑)。鋭い疑問を投げかける息子へ、”父”として諌めるときの物静かで威厳を感じさせる言い方と表情は格別でした。語気を荒げて怒りまくるよりもシンシンと恐さが伝わります。


女優さんの中でも、かなり好きな仲間さんが嫁として母としてかいがいしく働き、夫に優しく寄り添う姿は素敵でした。抑え目の表情でも、彼女は本当に目が生き生きとして、ただそこに座っているだけでもオーラがあります。ベタベタしてるわけではいないのに、直之と愛情深い夫婦であるのが自然に伝わってきてベストカップル賞!という感じでした。


堺さんのこれまでの主演映画の中でも、やや異質な作品だと思いますが、動きの少ない、喜怒哀楽の抑えられた静かな映画でも、やっぱり堺雅人は魅力的だわ〜とウットリする自分。大丈夫、今のこの愛情があれば、しばし堺さんの役柄で幻滅する心配はなさそうです。来年は、『日輪の遺産』。さてその次の映画は・・・早く知りたいです。


そういえば映画雑誌も一挙にインタビューが載っておりますね。嬉しいけれど困るんだな〜。一冊1000円近いこれらの雑誌、4頁まではなんとか購入を自制できますが、6頁以上となるとタガが外れてしまいます。でも、珍しいセーター&Gパン姿で爽やかに微笑まれるとそれを拒否するのは、至難の業なんですって。ピチピチ笑顔のアイドルより、”いぶしプリティオジサン”に身悶えるこの日々は、ホントに幸せなんでしょうか・・・。

公式サイト:12月4日(土)公開『武士の家計簿』オフィシャルサイト


堺雅人インタビューなど:
堺雅人インタビュー 「幕末の負け側ばかり演じてきて、勝手に三部作って呼んでます」 | シネマカフェ cinemacafe.net

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堺 雅人 | web R25

【今週のクローズアップ】旬の男、西島秀俊に独占インタビュー! 俳優としての過去・現在・未来を語る! - シネマトゥデイ

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武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

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原作の新書です。堺さんの愛読書になってるそうなので、いずれ読みます。


アクチュール No.21 (キネ旬ムック)

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久しぶりの巻頭大特集。こういうのは文句無しに買い、です。露出が少なければ、その分集中投資なんだってば(笑)。堺雅人ファンを侮るなよ、って。


キネマ旬報 2010年 12/1号 [雑誌]

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なんだか悲しいような苦しいような微妙な表情を浮かべてて、何故この写真が表紙なのか?と素朴な疑問。なんですよね。キネ旬、シックな時代劇とかめちゃ好きそう。そして堺さんはキネマ旬報社に愛されまくりですね。


ゴールデンスランバー (新潮文庫)

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やっと発売された文庫版。即買いしました。