雅・処

好きなアイドル・俳優・映画・演劇などエンタメ一般やスポーツについて自由に語ります。

スタジオライフ『ファントム』観劇記(3)

ここが違う、ここが凄い

前回からの続きです。

産み落とされし者(少年期)

家を飛び出し、傷ついた身体で放浪するエリックは、ジプシーの集団に捕まってしまいます。そこで出会うのは、見世物興行師のジャベール。檻の車に乗せられ、思うがままにエリックを見世物にしようと画策するジャベール。暴力的で、支配者として振舞うその男の苛烈さに少年エリックは抵抗むなしいことを悟り、言うとおりに振舞うことを覚悟します。


それでも、強い自我に目覚め始めた少年エリックには、己の醜さを人々の前に無残にさらけ出し、女性達に悲鳴をあげさせるようなえげつないことを簡単に受け入れることができません。プライドがずたずたに引き裂かれ、愛されることのない自分を嫌というほど自覚させられるのです。「お前は、女性を失神させたというあのドン・ファンにも勝る」などと褒めるジャベールへの膨れ上がる憎しみ。


やがて花に美声で歌わせるという腹話術を使い、次第にジャベール操られるだけという弱い立場から脱していくエリック。そして3年の月日が流れ、愛や性に関心が出始める少年期、エリックの肉体に新たな欲望を抱き始めていくジャベール。思いのままにしようと襲いかかる瞬間、ナイフでジャベールを刺し殺し、「子供の時代は終わった!そして僕は大人な男になった。それも殺人犯にだ。」と激しく身を震わすエリック。

【見どころ】


ジプシー達との出会い、見世物とされる悲惨なエリックの場面が続きます。檻の車の中で、ジャベールの暴力を受けるシーン。あの狭い空間の中で、ジャベールに殴られたり蹴られたりする時に、エリックの身体は何度も飛び上がり檻に叩きつけられます。たとえ演技であっても相当危険なアクションであり、なおかつ芝居もこなす芳樹君、林さん両者の運動神経の良さに驚きました。


邪悪の塊のような男でありつつも、”雇われ興行師”ということでジプシーの仲間には入れない孤独な男という一面もあるジャベールは、ジュニ9として初の大役かもしれない堀川剛史君と低音の美声を持つ牧島進一君が演じました。個人的には、堀川君のジャベール、かなりエロエロで(笑)好きでした。もともと”ホスト”のような独特の押しの強い色気を持つ彼でしたが、威圧感も見せて、臆することなく堂々と演じていたことに感心しました。


山本エリックに襲いかかる時の野獣のような雄の色気はもうたまりませんでした。”誘い受けモード”の芳樹君が相手だと一層拍車がかかり、かなり「ヤバイ」シーンとなってて、「十八禁じゃないかしら、これ」とハラハラドキドキ。ここまでの色気はないかなあ、と思ったエリックと牧島ジャベールも、両者とも小芝居が丁寧なだけに、また違った艶めかしさがあって、なんと美しくすばやくベルトを抜き取るか、と感嘆。いやあ甲乙つけがたい(なにが、だ)。


3年間の成長を感じさせるように黒いブラウスで再登場するエリック。とても凛々しくて、マスクもお洒落なパーツに見えてきました。衣装一つが変わっただけですが、ちゃんと大人への成長を演じ分けてみせる二人のエリックに魅了されておりました。


スペインでのジプシーの群舞のシーンも楽しかった。松本慎也君が女の色気すら漂わせて扇情的でしたし、嬉々としてターンを決めていた芳樹君、林さんは寝そべって片足を上げていたような。。。男と女の営みを目にして欲情するエリックなど、実にアダルトな構成で息抜きシーンではないところもミソ。エリックに激しく嫌悪感をぶつける深山君の意地の悪いジプシー女っぷりも良かったです。


深山君が出てきたところで、ジュニ1勢揃いを実感。昔は、当たり前のように同じ舞台に立っていたメンバーでしたが、珍しく感じてしまうほど時が過ぎたのでしょうね。やっぱり、ジュニ1クラスが重要な役どころを固めると、芝居の風合いが変わって、これぞスタジオライフの真骨頂、という気がしてきます。

死にゆく者(青年期)


イタリア、ローマ。肺病のためまもなく寿命が尽きることを自覚している、跡継ぎのいない石工、ジョバンニとの出会い。偶然の出会いからジョバンニに気に入られ、彼の家の地下室で暮らすようになるエリック。石切場では、リーダーも任されるほどに信任のあついエリックだったが、仮面を外さないエリックに不審を募らせる仲間達。


やがてジョバンニの末娘ルチアーナが寄宿学校から帰ってきたところから悲劇の幕が上がります。エリックに向ける興味と関心が、いつしか恋心に変わっていくのです。不器用で愛を態度で示すことができないルチアーナと、後ろ暗い過去にひきづられて人々から隠れて生きるエリック。仕事場では、やがてエリックに対する悪い噂が広まっていく。


ルチアーナは、エリックに素顔を見せるよう懇願し、もはやその選択を拒めないと説得をするジョバンニに「あなたが命令するんですね。」と激しく呻きながら仮面を剥ぎ取るエリック。恐ろしい形相に悲鳴をあげ、屋上から足を滑らすルチアーナ・・・。一つの平穏な世界に留まれず、またもや去らなければいけなくなったエリック。今度は、後ろを振り返ることもなく、しっかりとした足取りで前へ進んでいく。

【見どころ】


エリックを庇護するジョバンニ。世の中は冷酷で救いようの無い生き地獄だ、と思っているであろうエリックに対し、まさに父親のような愛情の深さと理解を見せ、束の間の安らぎを与えます。そして頑なで孤独な天才、エリックが奥深くに眠る人間らしい温かな感情を見せる一瞬があります。


肺病のため苦しむジョバンニに自分が処方した薬を与えて介抱する姿に、「いい子だ、誰がなんと言ってもエリック、キミはいい子なんだ。」と語るジョバンニ。一番の泣かせどころでした。こういう優しさがエリックの幼少期にも溢れていれば、彼はきっとこれほどまでに悲惨な人生を送らないでいたのでは、と思わせられました。


無邪気ゆえにエリックの怒りをかってしまうルチアーナ役は、松本慎也君。緑のチェックの衣装がまるで西洋人形のようで、もはやさすが、としかいいようのない愛らしさです。愛されまくったわがまま少女そのまま。でも叶わぬ初恋に不器用な行動しかとれないのが、憎めないところ。少女が一方的に向ける愛を、自分の孤独な平安を乱す脅威の存在とみなし、苛立つエリック。どちらの気持ちも分かるだけに、なんとも切ないすれ違いでした。


それ以上に、ジョバンニとエリックの別れがまた切ない。ジョバンニを演じる、曽世さんと笠原さん。エティエンヌ・バリー役と共にWキャストで臨んだこの役ですが、熟年役を本当に自然に演じられるようになった二人に改めて感慨深いものがありました。まだまだ、二枚目役やヒーローで活躍していただきたいけれど、こういう円熟の味わいも素敵です。


来年の後編では、あの有名な「オペラ座の怪人」のストーリーが展開されるようですが、エリックは曽世さんと笠原さんになるのかな。ラストにそれを匂わせる仮面の紳士が現れ、二人が演じておりましたし。林さんの少年エリックがあまりにも強烈で、目に焼きついてしまったので、成年編についてはまだどうなることやら想像もつきません。

美術・映像・演出


今回、一番の宣伝ポイントだった舞台演出。初めて見た時は、格別に凄い!と実感できませんでした。そもそも物語が強烈すぎてそれどころじゃない(笑)。しかし、前方右端、後方左端、前列中央といろいろ違った視点から、舞台を見て気付いたことがありました。館の中や外の情景を、セットに映し出しているのですが、これはコンピュータ制御でプログラミングされていたようです。


単に客席上方から映写機で映し出せば、人物の影が入ってしまいます。浮き上がるようにくまなく映し出すのはどんな方法をとっているのか興味が沸きました。館の紋章まで投影だったとは!と驚きましたし。まあ、美術的に凝った絵柄ばかりでしたが、舞台では結構ぼわっとした背景になってしまい、感動するほど綺麗というわけでもなかったな、というのが勝手な意見です。


もっと驚いたのは、情景を映し出したボードが透ける素材だったこと。てっきり普通の板だと思っていたのですが、ボードの後ろで演じるとき、ちゃんと透き通って幕のようになっていました。さらにそのボードの後ろに左右に置かれた2つのライトが強い光を放つ時など、どこか違う世界に迷い込んだような錯覚を覚えました。


見世物小屋でエリックが花に歌わせる芸を披露し、その後に仮面を剥ぎ取るシーン、「後ろから見るとすごく素敵なんですよ。」と友人に教えて貰ったのですが、本当にその通り。一瞬、エリックの素顔を闇に消し去り、身体だけが華麗にポーズをキメる様子が光の魔法のように美しく、瞼の奥の残像に残りました。


ただ、こういういろいろな新しい試みは良いのですが、個人的にはなんでもかんでも映像で演出しよう、というのはあまり好きではありません。やっぱり最後に心に残るのは、役者の肉体と演技だからです。たとえ凝った演出が無くても、そこに世界を創り出すのは、あくまで役者の演技だから。


もっともスタジオライフは、音楽が使い方がうまく、劇的な効果をもたらすことができるため、今回のように別な面でいろいろなチャレンジをしてみたり、いろいろ外の世界の人と組んでみて、世界を広げるのも一つの手かもしれません。確かに『ファントム』は、今までの劇団のカラーとはどこか違う色あいを見せた作品となってました。

まとめ


初めてこの芝居を見たときには、救いようのない暗さと重さを感じましたが、その後、何度か繰り返して見ることで、ちょっとずつ印象が変わっていきました。過酷な生涯ではありますが、一人の少年の成長物語でもあるからです。同時に役者全員の並々ならぬパワーが漲っている作品というのは、力強さに満ち溢れています。


堀川君や緒方君のように、チャレンジをするチャンスをもらった役者は、確実に成長を見せるでしょうし、ベテラン勢も一段と深遠なるものを垣間見てるのではないか、と思います。後編の出来次第では、もしかしたら、今後再演もあり得るかもしれません。ずっと見続けたい作品か?と問われれば迷う部分もあるのですが、少なくても役者の体当たりの演技を見られる、という意味では有意義な作品かもしれません。


個人的には、少し後になっても構わないので、DVD化をお願いしたい・・・。林さんの代表作がまだ全然映像に残ってないのですよ。それでなくても、スタジオライフは、代表作をことごとく素通りしてDVD化するセンスの無さが痛いところ(汗)なので。お頼みしまーす!



Studio Life「PHANTOM THE UNTOLD STORY ~語られざりし物語~」


www.theaterguide.co.jp


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