雅・処

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男だけのシェイクスピアシリーズの千秋楽

迷いに迷い、何度か思いを断ち切ろうと努力しながらも、とうとう足を運んでしまった、彩の国さいたま芸術劇場。なんと5年ぶりに見ることになった「男だけのシェイクスピアシリーズ」、それもギリギリセーフの千秋楽。決め手は、初のタイトルロールで悲劇のヒロイン役に抜擢された、月川悠貴君のためでした。それにしても本当に長かったマイブランク。


ファンなんて恥ずかしくて言えないですよね、5年も放っておいて。それもこれも、ご贔屓劇団の定期公演が年に4,5回もあり、他にもご贔屓歌手やご贔屓アイドルがあって、地方出身の悲しさで東京遠征を最低限に抑えねばならない経済的な理由の故。今までの芝居であれば、悠貴君が、主役でないことで我慢もできたのですが、さすがにこの大役の威力はすごかったです。もちろん、見られて後悔なし!


決して得意とは言えない、シェイクスピア蜷川演劇の組み合わせということで、ストーリーや台詞の解釈にもイマイチ自信がありません。想像していたよりは確かに面白かったのですが、”ギリシャとトロイの戦闘”こそが実はメインテーマであったのか、と気付いたこの物語について、詳細に語るつもりは毛頭ありません。せいぜい「さすがにベテラン役者のオジサマ達は、皆上手でした、以上」というレベルです。


私が一方的に集中し、一心不乱に見つめていたのは、トロイ国のクレシダ姫である悠貴君です。売れっ子イケメン俳優の山本裕典君とのピュアなラブシーンと別れの場面が一番の見どころでした。自分が非常に偏っているのは、普通に男女の役者で演じられたラブストーリーが大嫌い、ということ。特に同じシェイクスピアが書いた「ロミオとジュリエット」なんかは、どうしても好きになれない演目です。


でも、今回馴染みのないこの芝居を見ていて思いました。「実は結構、ラブストーリー好きだったんだ、私は。」と。ただ、”全く神秘性を感じさせない女優に演じられた役”を見続けるのが苦痛、ということだったのか、と。同性だけに演技以前に、多くの女優から滲み出る、男に媚びた表情や演技が苦手。ゆえに”男性が演じる女優”が異常に好きということか。

【汝を”女優”と呼ぶ】


舞台上でむくつけき男達の饗宴が続いているのをしばらく我慢しながら、”姫”の登場を待ちわびました。そして、客席後方からゆったりと純白のドレスを揺らしながら、悠貴君登場。通路席の真横を通ります。横顔と長くウェーブした黒髪*1、そして美しく細い二の腕とむき出しになった肩のラインを見ただけでもう鼻血が出るほど大興奮。客席で固まって、何故か息を殺して見入ってしまいました。


それからゆったりと焦らすかのような独特の間合いで台詞を紡ぐ悠貴君。男役も女役も喚きたてるような台詞を吐き出す役者が多い蜷川芝居の中で、いつも動じず、落ち着いて、優雅に”溜め”て話す、悠貴君。時にはそのまどろっこしいくらいの言葉が男どもを焦らし、迷わせていくのです。ああ、これだわ。彼の繊細な顔立ちや表情、女性らしさを体全体から醸し出すその雰囲気のみならず、高すぎず低すぎずの声音と、語尾が消えかかるようなイントネーションが、何よりも酔わせてくれるのです。


悠貴君は、圧倒的に「姫」で、誰も異論をはさめさせないほど徹底とした女役に徹していて、その厳しいくらいの抑制が演技に幅を持たせています。それだからこそ、山本トロイラスが恋に盲目になり、嫉妬に狂いそうになっているのが、めちゃくちゃ説得力をもってくるわけです。恋するクレシダも、「そうやすやすと男の所有物にはならないわ」と女の狡猾さも覗かせるのですが、やはり惚れた男に身を任す時は、娘らしさ全開でのめり込んでしまいます。


トロライスとクレシダの長い、長すぎる接吻&抱擁。それもあまりに自然で綺麗で、「男同士」ということを忘れるほどに見とれてしまってました(反面、これって山本君ファン的にはどうなのかな?(笑)という思いがよぎらなくもなかったのですが。)


その山本君、千秋楽だけに声をやや潰しておりました。滑舌とか発声とかのテクニックの面では、正直まだまだ・・・であるのは当然。気負いすぎて台詞の伝達能力も弱い。ただ、自分を偽ることのできないほど素直な青年役ぶりは、かなり好感が持てました。蜷川芝居で過去に見かけた、いろんなイケメン役者の中でも、フェミニンな可愛らしさや情感があるタイプで、なかなか好演していたと思います。まあ、喚いたり慟哭したりする芝居が、どうしても歴代のイケメン役者達と似てきちゃうのが、残念ではありしたが。


さらには、人質交換後、クレシダに手を出すギリシア軍のディオメデス役を、いっとき芸能ニュースを賑わせた塩谷瞬君が演じておりまして、彼もなかなか頑張っておりましたね。野望にギラギラ瞳を輝かせつつ、どこか不器用そうな感じが憎めないのです。2人とも、頭で考えすぎない、あまりにも直球勝負な演技をしてくれるから、逆に気持ち良いんです。そこが若手好きの蜷川さんの狙いなんでしょうね。


クレシダが、「不実なクレシダ」と己を呪いながらも、ディオメデスに身を任せる気持ちが良く分かります。果たしてクレシダは、貞節を捨ててもずっとトロイラスを思い続けていたのでしょうか?一説には、合わせ鏡のような2人の男をどちらも手玉にとった悪女で”娼婦”という解釈もあるようですから、ハッキリ白黒つけられない女性に見えました。またそういう過酷な運命に翻弄される女性だからこそ、悲劇になるのでしょうね。


悠貴君の演じる女役は、以前のシェイクスピアシリーズでも、ちょっと謎めいた感じが残るのが特徴だったと思います。単純明快ではなくて、何か”裏の顔”を持ってそうな・・・。そこが神秘的で最大の魅力でもあります。


いやあホント、舞台の上で”圧倒的な姫”に変貌し、カーテンコールでも絶対に仮面を脱がない、月川悠貴が好きです。その気位の高さに、惚れぼれ。崇め奉って、跪いてキスしたくなっちゃいます。それに数少ないインタビュー記事を読んでも、彼がちゃんと信念を持って”女役”を演じているのが伝わってくるから、そこに妥協や慢心が見えないから素敵なんです。


ただ、ひととき「女役」という特殊な役を演じようとする男優は多いのです。しかし、それをキワモノやマガイモノと見せないためには、演じる上での説得力が欠かせません。そして、テクニックだけでもダメ。そこに必要なのは、ハートよ、なんてありきたりのことではなく、私が思うのは、どれだけ本気の”覚悟”を持ってるか、でしょうか。女役が飛びぬけて上手い人は、自分を追い込んで、かつその葛藤を他人に見せない。


美意識とプライドの高さや自分の深層心理まで深く遡って作り上げていく過程が見えます。そこが普通の役者と際立ってる気がして、たまらなく惹かれるところなのです。

【印象に残った男達】


他にちょっと印象に残った男達も挙げておきます。アキレウス星智也)と美青年パトロクロス長田成哉)コンビ。タッパもあって筋肉質、声も良く通るアキレウスが、”お稚児”さんとして愛してもいるパトロクロスにやたらとキスをしてました。第二部になるまで、二人が「そういう関係」ということに気付かなかった私。”その手のコト”には、真っ先に気付くはずのこの私が!


多分、彼らの絡みがあまりに健康的(笑)で、親愛の情にしか見えないキスだったからなんだと思います。このコンビ、全く色気ないんですわ。だから最後のアンコールで、ハグし合った山本&月川コンビの横で、サービスでチュッとキスを見せてくれたこのお二方に、全然ときめきませんでした。まあ、子供も見てるようなお芝居だったから、このくらいのアッサリ度で良かったのかもしれませんけど。私的には、色っぽく妖しくなけりゃ、野郎同士のキッスなんてときめきません(そこだけ拘る)。


出番が少ないながらも、狂気の預言者カッサンドラ(内田滋)も印象に残りました。内田君の女役は、「間違いの喜劇」等ですでに見ておりましたが、もともと男性的な声質や所作なので、あまり好みではありませんでした。今回は、外見的にはすごく女性度が高くて、黙っていると綺麗な女優さんだな、と錯覚するほどでした。それに、役どころも強烈だったので、インパクトがありましたね。


ショッキングな衣装で、叶野姉妹ばりにボインちゃんのヘレネ鈴木彰紀)や、美少年ぶりが目を引いた尾関陸君など、どんどんイケメンの若手も出てきて、まあ今後の競争が大変そう、と思わされます。そういえば、日テレの番組にゲスト出演した山本君が、同じ事務所の親友でありライバルでもある溝端淳平君への蜷川さんの「いつか一緒に(舞台を)やろうな!」というラブコールに、本気で「ダメダメ。絶対やめてくれよ。」と焦っていたこと*2を思い出しました。


蜷川演劇は、すっかり「若手の登竜門」と化しているんですね。ただ、あまり若いうちから、蜷川演出のクセが身に付いちゃうと後が大変なような気がしますけど・・・。それはともかく、夢のような月川クレシダに天にも登る気分の1日でした。埼玉公演は終わりましたが、これから地方公演で長丁場が続くので、役者の皆さんには、体に気を付けて頑張って欲しいです。


今回、千秋楽の舞台ということでにカメラが入っていたので、DVDの映像になるのか、テレビ放映されるのか分かりませんが、悠貴君の女役に早く再会したいです。最後のカーテンコールで、確か山本君が悠貴君に「ほっぺにキスして」と仕草で求め、少し驚きながらも、微笑みを浮かべ、ゆっくり近づいて頬キスをするシーンが見られました。終わってはにかみ笑顔の山本君。「女役だとしても相手は男だし・・・。」なんて確かキミ、インタビューで言ってなかったかい(笑)!?


2012.11.20追記:なんと来月の12月15日にWOWOWにて、「トロイラスとクレシダ」の舞台放映が決まりました!それだけで驚くなかれ、過去の「男たちのシェイクスピアシリーズ」(月川悠貴出演作品)が一挙5作品連続放映。うわーい、この日を待っていたわ・・・(感涙)。

観劇予報 : 『トロイラスとクレシダ』山本裕典・月川悠貴インタビュー

*1:金髪鬘に慣れていたので、最初少し戸惑いました。

*2:蜷川さんに声をかけられる前は、淳平君の方が活躍している、と思い内心複雑だったとか。