雅・処

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2014 『トーマの心臓』観劇記(1)

まさに衝撃!圧巻の松本ユーリ

真夏のような灼熱地獄の東京から帰ってきました。目的は、劇団スタジオライフの『トーマの心臓』観劇。本来のライフワークの一つです。キャスト違いの3公演を一気に見てきたので、かなり疲れてますが、久しぶりの心地良い疲れです。心が浄化されて帰ってきました。


この『トーマ』と『LILIES』は、私にとって何よりも大事な公演です。そして、終わってから何かたとえようのない想いに心が占められて、何もする気がなくなるのが通例。心こにあらず、でフワフワと漂うかのようなビョーキの状態がしばらく続いてしまうのです。ただ、いつでも、というわけではない。なので、今回はなかなか幸せだった、ということですね。


実は、キャスト発表を聞いた時は、前回「LILIES」公演の悪夢が甦りました。エーリクという重要な役をトリプルキャストでありますが、2年目の若手2人が演じる。「また、このパターンか?」としばし脱力。演技力(テクニック)に不安が残る、というよりも、エーリクというキャラクターに彼らはマッチングするのか?という不安が一番でした。


その次に、仲原オスカーにも驚きがありました。成長著しい仲原君で、『LILIES』シモン役以来、プチブレイク中の彼。実は、私はユーリ役で見たいな、と思っておりました。彼の持ち味である潔癖さと頑固さ*1、不器用さが結構イケるのではないか、と。オスカーの前に一度彼のユーリを見て見たかったなあ。


そして”鉄板”の山本及川コンビ。演技的にはなんら心配のない彼らですけど、さすがに11年ぶりの及川エーリクというのはどうなんだろう?と。更に、せっかく前回の公演で、満を持して登場した岩崎オスカーなのに、公演数は仲原君のほうが多い、という若手に力を入れているのが見えるスケジューリング。なんだか不安がいろいろと募って、ひとまずあまり考えないで置いておくことにしました。


で、空けてビックリ。実際の公演は、事前の不安を払拭するような、圧倒的な空間が繰り広げられており、さすがスタジオライフの十八番だけあるわ、と感心しきり、でした。

【苦悩の表現がものすごい、ユリスモール】


さすがに2000年、2003年、2006年、2010年と30回以上の公演を見てるので、「今更、トーマってこんな芝居です。」なんてことは書けません(書きたくても書けない)。台詞も音楽も、一部の役者以上に頭に入ってる(笑)状態だし、どのシーンでも”パブロフの犬”状態で涙が出てくるような、完全に”トーマ廃人”の私です。


今なお東京に住んでいたら、きっと可能な限り狂ったように通い続けてしまったことでしょう(特に今回は)その原因を作ったのは、マツシンこと松本慎也君演じるユリスモールでした。マツシンが、スタジオライフでの花形役者であることは、誰しも異論の余地はないと思います。それだけに不安が多かったキャスト発表の中でマツシンのユーリが一番の楽しみ*2でもありました。


同時に、過去にあれだけ魅力的に演じていた松本エーリクが見られなくなる寂しさもあったのです。そんなマツシンがもう最初の登場シーンから、目が離せないほどの強烈な存在感を見せつけました。今まで、芳樹君はもちろんのこと、山崎さん、曽世さん、奥田君、青木君という役者達が演じ続けてきたユリスモール。


そして、彼らの実力をしても、料理することがかなり難しいことが分かるほどの難役がこのユリスモールだと思っていました。スタジオライフにあまたの男優はあれど、「オスカーやエーリクは適役がいるものの、ユーリがいないんだよなあ・・・。」と、寂しくいつも思っていました。芳樹君が安らかに卒業できないのは、彼のユーリが、これぞ、という唯一無二の魅力を持っているだけでなく、他にユーリを演じられる役者がいないからという苦しい一面もあったと思います。


だからこそ、エーリクでトーマの愛の世界を熱く体現していたマツシンが、「トーマの心臓」でユーリ役を引き継ぐ正当な後継者となるかもしれない、という期待は大きかったのです。彼は、スタジオライフが育てた、それこそ申し子のような役者ですから。でも、マツシンの演技は、私の想像力のはるか上の高みを創り上げていました。そのことに大興奮したのです。


「こんなにもやれるんだ、マツシンは!!凄い、おみそれしました。」という脱帽宣言です。こんなに情熱的でこんなにも優しく、そしてこんなにも深い傷を負って苦しむユーリを見たことはない。しかも、まだ開演して1週間ほどのしか経っていないというのに。これから、松本ユーリはどこまで到達してしまうんでしょう、恐ろしい限りです。


若手のエーリクと組んでる松本ユーリ。正直、彼らはまだまだ歴代のエーリクに比べると、経験不足は否めない。先輩達にガッツリぶつかっていけて受け止めてもらっていたエーリク時代のマツシンに比べると、パワー的に非力で、エーリクとのやりとりだけでは、ユリスモールは苦悩できない感じでした。


私のあくまで一方的な想像ですが、マツシンはエーリクをすでに自分の中に過去の財産として持ってるので、それを”想像力の肥やし”にして演じていた気がします。エーリクの熱さ、真っ直ぐさを自分が誰よりも強く分かっているのです。なので、一人2役といいますか、エーリクと一体化しているように感じました。


そしてトーマへの愛。トーマが自殺してから、ユーリの心を捕えて決して離すことがなかった哀しみと後悔。それもマツシンのユーリは、極限まで表現してくれていました。一つ一つシーンが終わることに、ユーリの真の苦しみが、ストレートに伝わってきます。本来の感情を隠して、できるだけ普通に振る舞っているユーリ、という設定ですが、マツシンの場合は、心の叫びや苦しみを見ていて痛ましいほど正直に出し切ってました。


目に焼き付いた場面がいくつか。ベッド脇に落ちたブレザー(エーリクがハサミに驚いて持っていた制服を落とす)にありったけの想いで手を伸ばし抱きしめる場面。レトヴィに「何も知らない顔で聖書を読んでいる嘘つきよりマシなはずだ。」と言われ、一瞬にして冷酷な表情を浮かべて「どういう意味だ」と詰め寄る場面。白いブラウスを背に扉の縁で崩れ落ちるシーンなど。


一言の台詞にもスキがない。聴き慣れた台詞が全く違って聞こえる、ということがいちいち驚きでした。それどころか、動き一つとってみても、「トーマに色濃く愛されたこと、その愛を受け入れられなかったこと」の苦悩が滲み出てきてました。ラストシーンのトーマの詩の朗読シーンは、まるで魂の叫び。強く切なく、天国のトーマの愛を確固たる意思を持って受け入れているようでした。

【マツシンの凄味】


私が感動したのは、マツシンの演技力もそうですが、彼の人物への読解力の深さかもしれません。スタジオライフで歌舞伎のように受け継がれてきたのが、この「トーマの心臓」という芝居。それゆえ、どこかしら演じている役者にも、見ている観客の中にもある程度、「ユリスモールは、抑制された感じの少年、だよね。」という固定観念があって、その見えない殻を打ち破るような演技が出てこなかったように思えます。


今回の公演で、前例のないほどに激しく自分を痛めつけるようなユーリを、マツシンが自らの力で作り出した、その”勇気”に本当に感動しました。歴史のある劇団代表作であり、ファン人気も№1、数々の先輩達が大事に築きあげてきた作品で、今までにないユーリ像を作るのは、どう考えても怖いはず。何があっても自分を信じてなければできない芸当です。


だからこそ「松本慎也という稀有な役者が、今この瞬間に確かに生まれたのだ」という思いに震えが走りました。マツシンが入団したての頃から、今に至るまでスタジオライフのホープとして育てられてきたのも実感してますし、彼がその期待に十分応えてきた姿も見ています。


それでもなお「トーマの心臓」から、初演メンバー(シニアやJr.1世代)が全ていなくなったら、果たして後輩達は、この世界観を引き継いでいってくれるのだろうか、と危惧しておりました。Jr.7が入団した頃は、スタジオライフもかなり安定した動員ができるような劇団になっていましたし、大きめのホールでの公演もできるようになってきてます。


マツシンがただ沢山の主役を演じて経験を重ねてきただけではなく、ここまで深く「トーマの心臓」の神髄を理解していたのか、ということに単純に感動し、平伏してしまったのです。なんだかマツシン大絶賛中(笑)となっておりますが、私の褒め言葉は止まりません。もっともっと彼のユーリを見たい、見たくてたまりません。


本命役者の不在中に、「いまさらマツシンの魅力を熱く語ってどうする!」と我ながらツッコミいれてしまうほど(笑)、役に惚れて惚れ込みました。うん、これは芳樹ヴァリエ、林エリック以来の衝撃ですね。


<余談> 5/31と6/1の公演では、カメラが入っていたので映像化を期待したのですが、今のところ商品化の予定はなく、「記録用」とスタッフの方が言ってました。色んな意味で貴重な映像なので、やっぱりDVDになって欲しいのですが、「トーマの心臓」は正直、著作権がらみで難しそうですね。。。

朝日新聞スターファイル観劇レポ:
舞台版の醍醐味、痛みがフィジカルに伝わる - スターファイル - 朝日新聞社
⇒ 後半が有料なのが残念!でも、ユーリ写真が素敵。

◇記者会見&観劇レポ:
萩尾望都の不朽の名作「トーマの心臓」が4年ぶりに舞台に蘇る! | アニメ!アニメ!


miyabi2013.hatenablog.com
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*1:あくまで私のイメージで、本来の彼は結構リーダー気質もあるようです。

*2:パンフレットにも松本ユーリが今回の成功の鍵である、とまで書かれてましたね。