雅・処

好きなアイドル・俳優・映画・演劇などエンタメ一般やスポーツについて自由に語ります。

1人の役者 ノスタルジックな回顧録(2)

前回に引き続きまして回顧録を進めます。思えばこの頃って、まだブログ開設のはるか前でした。巷でも、ブログサービスがまだ一般的になる前で、ファンサイトで掲示板BBSに投稿するなどちまちまやりとりをしていた頃なんですね。なんとか古い記憶を辿って、書き連ねていきます。

④鑑定医シャルル(2002年)

スタジオライフには珍しいタイプのサスペンス劇を舞台化したものです。チラシに映る笠原さんの謎めいた顔と金髪スーツ姿が素敵でした。主人公シャルルの推理で、バラバラ殺人事件が解決していき、やがてある家族の内部に巣食っていた”特殊な闇”が暴かれていく、という内容でしたね。


この作品、ラスト近くにさん演じるニノンの長い独白シーンがあります。とても従順で優しい母親だったニノンの病んだ精神状態を、またもや圧巻の演技力で見せてくれました。台詞の一つ一つを覚えているわけではいないのですが、ショールを効果的に使いながら歌うように舞うように演技していた姿が目に焼き付いてます。


長く胸に秘めた願い(直接手を下さずに夫を殺害する)をとうとう叶えたという、陶酔感に浸りながら恍惚の表情を浮かべて語る姿が、とにかく怖いを通り越して崇高に見えました。例えると、悪に染まった「マリア様」のような女性役だったのです。笑顔を巧みに織り交ぜて狂気を演じる。


その後も林さんには、面白い役やアクの強い役など、いろいろと見せていただきましたが、私はこの正常と異常が紙一重のような鬼気迫るような人物を演じる時の林さんが一番好きだったかもしれません。ニノンの独白シーンは、周りの演者も観客の存在すら消し去り、ただ一人林さんの演技を存分に堪能できたひとときでした。

⑤ THREE MEN IN A BOAT+ワン(2002年)


怒涛のような1年の締めくくりがこれまた濃密な芝居ですね。こちらは、とにかく死ぬほど笑いに笑ったお芝居です。ウエストエンドという狭い空間でたった4人の役者のみで繰り広げられたイギリスの戯曲。なぜか「オネエ」設定となった、石飛さん、さん、前田さん、そして犬役の舟見君が旅をする最中で起こる様々なアクシデント。


おおまかな物語の流れは作られていますが、役者のアドリブを自由に入れて、毎回違った展開を見せるナマモノの芝居です。観客も道具を使って「効果音」を作り出したり、ちょっとしたゲームをいきなり始められたり、参加型なのです。万一、開演後に遅刻入場でもしようものなら、さあ大変。”生贄”のごとく、全員から指を刺されて赤っ恥をかきます。


そんな楽しさ全開のお芝居で、あまりの天才的なアドリブ攻撃に目を丸くさせられたのが、またもや林さんでした。「アナタ、一体どんだけ引出し持ってるのよ!」と、アングリ状態で見続けました。石飛さんをからかったり、前田君を苛めたり、とにかく好き放題のようでいて、一瞬のうちに計算しているような抜け目の無さ。


こういうワザって、芝居の上手下手を超えて、もう天性のものとしか思えないですね。本気で尊敬もしましたし、ファンだなんて軽々しく言っていたものの、そのあまりの才能に”ソラ恐ろしい人”と慄いた瞬間でした。


あまりにも面白い芝居だったので私もかなりリピート観劇したのですが、中日を超えた頃、さすがに体力の限界だったのか、開演前には具合悪そうなキビシイ表情を見せていた林さんも忘れられません。芝居が始まる前の客入れから最後までずっと休みなく、ステージに居続けるという過酷な芝居でもありましたから、いろいろな顔を見られました。


芝居の盛り上がりどころでは、4人の役者で素敵な歌「星に願いを」のプレゼント。確か、シッカリ歌う林さんを見たのはこの時が初めてだったかも。それでまた、信じられないほど上手くて、超感動でヤラレまくりでした。何もかも全てが一級品の役者、自分の想像のはるか上をいく姿に、「なんだかズルいよ~(笑)」と思うほど。


振り返ってみて、この1年間は、本当に至福づくしの1年でした。全てが林さんのためにある、みたいなお芝居ばかりだったからです。それまで抱いていた耽美劇団の印象が180度転換して、シリアスもコメディもOKな、奇想天外な舞台芸術を見せる劇団、という印象になりましたし、林さん1人加わっただけで、100人力みたいな漲るパワーがあったからです。

⑥パサジェルカ(2004年)


無名塾の外部公演がツアーを含め1年近く続いたため、ノリにノッテいた林さんの快進撃は一旦ストップします。(私には、とにかく物憂い1年でした。)そして満を持して、「パサジェルカ」の女主人公で復活。更に、この芝居は曽世さんとのダブルキャストで初主演を演じ、林さんにとっても転機となった作品でした。


今までも”陰の主役”(笑)ではあったものの、本公演の主役・タイトルロールというのは、すごく重いもの。主役までの道のりは果たして長かったのか、程よい頃合いだったのか、は分かりませんが、魂のこもった、重厚で見応えのある作品になっていました。


この作品、ユダヤ人の強制収容所で看守と囚人という立場で出会った二人の女性が、戦後だいぶ経ってから偶然、豪華客船の上で再会する、という物語です。林さん演じる女看守リーザは、マルタという女囚に「愛に近い感情」を秘かに抱き、さりげなく庇護したりしているのですが、厳しい身分と立場の違いから様々な悲劇を経験していきます。


戦犯として糾弾される恐怖とも闘って生きているリーザは、身の危険を感じながらも「果たしてマルタは、私を許してくれているのか」という長年の思いに揺れながら、マルタを追いかけてしまう、という性(サガ)がなんともいえない不思議な余韻を残しています。


1番の思い出のシーン。収容所の別棟にいた恋人からマルタへ贈られた薔薇をリーザが奪い取り、「私はこんな花、貰ったことないのに!」と肩を震わせながら、嫉妬と切なさをぶちまけるシーン。グレーの看守服での回想シーンと、大金持ちとなって青のドレスを纏った姿の対比。もう一度、あの苦悩する林さんのリーザを見たい、と願ってしまいます。


楽日のカーテンコール。夫ワルター役の笠原さんが「あそこがキミの立つ場所だ。キミが一人で行きなさい。」というように、ステージ中央に向かって手を向けました。少しためらいながら進み出でて、潤んだ瞳で挨拶した林さんの姿も忘れられません。客席から、ただ一人に向けられる温かい拍手。


まさに「女優」誕生というセレモニーを見ているみたいで、たまらない感動がありました。