雅・処

好きなアイドル・俳優・映画・演劇などエンタメ一般やスポーツについて自由に語ります。

スタジオライフ『ファントム』2015 観劇記

名作の力はすごいけれど・・・

劇団スタジオライフ30周年記念のクライマックス、ということで、スーザン・ケイ原作の『ファントム』が連鎖公演されています。(明日が千秋楽ですね。)私は、2週間ほど前に観劇を済ませておりましたが、実生活でかなり滅入る出来事があり、ブログをアップするのが延び延びになってしまいました・・・。


しかし、裏返すと今回の観劇にさほど引きずるものがなかったのかな・・・ということもあります。私が見たのは、パート1が松本エリック、パート2が笠原エリックという組み合わせで、昼夜一気に見てます。もともと芝居自体は、初演やDVDで何度か見ている世界ですから、ストーリーや台詞も割合頭に入っております。


ザックリと印象を書きますが、「さすがは名作、誰が演じても名作」という完成度の高さを感じました。そして、他の作品と異なり、見るには一種の勇気がいる作品ですが、見始めるとめっぽう面白い。決して楽しい作品ではありませんが、暗黒の中にどっぷり陥って不条理の中の美しい真実に感動する、という・・・なかなかの見ごたえのある作品です。


しかし、初演の時のあの圧倒的な、息を呑むようなショッキングな世界観は、かなり薄らいでしまい、予定調和な印象がありました。この「ファントム」という芝居を初めて見たとしたら、たぶん印象は多少違ってくるかもしれませんね。

【オールスター感が足りないような・・・】


背景画が今回、いくつか初演と異なっていたのが分かりました。細かい演出部分にもいくつか「変わったかな?」と感じる部分がありました。パート1では、犬のサシャが殺され、エリックが刺されるシーンが舞台奥から前に出た分、何が起こってるかの描写が分かりやすくなりました。また、パート2のラスト部分(シャルル登場シーン)は、ラウルとシャルルの台詞も変更され、クリスティーヌとの場面が追加*1になって、かなり印象が変わっていました。


ただ、やっぱり一番大きいのは配役でしょうね。マツシン(松本慎也)の演じる、少年エリックは、不幸な育ちによって良い子なのに歪んで成長するしかなかった、という悲哀をとても感じました。全編、”安心して”同情ができる存在なのです。初演で衝撃的な怪演を見せつけた、エリックは、存在そのものが「邪悪」で、才能があり過ぎるのに迫害されたことから「怪物」になってしまった・・・という雰囲気だったので、そこが全然違いました。


一方で、マツシンだからこその強みが一番出ていたのが、曽世ジョバンニとの師弟愛のシーン。まるで擬似親子のような優しい関係性が透明で美しくて、一層胸に染みました。エリックの演じ方ってその役者の持ち味が、最も出てしまう恐ろしい役どころなんだなあ、と感じました。


関戸マドレーヌは、母親として息子を愛してる、という想いが、拒否すればするほど出ていて愛情深さが感じられました。幼少期の親子の”駆け引き”のようなシーンは、今回そこまで辛くなかったです。マンサール神父、牧島君は大好きな役者ですが、正直、山さきさんのマンサール神父がとても恋しかった。。。見世物小屋でエリックに暴力をふるう奥田ジェベールも、えげつない役どころなのですが、やっぱりそこまで嫌な奴には見えない(笑)ですし。


パート2の配役は、初演と引き続き、の役者が多く、その練り具合はさすがに良かったです。とにかく石飛ナーディル&笠原エリックの堅い男の友情には、一番グッときました。仲原ガルニエも深みを増していましたし。それにしても初演に比べ、牧島カルロッタは、なぜにあんなに”美人さん”になってしまったのでしょうか、存在が全然笑えない(笑)。曽世さん演じる青年ラウルの若々しさにも驚きましたね。若返りの薬でも飲んだのでしょうか、素敵すぎます。


そして、パート2で最も重要度の高いクリスティーヌを演じた久保くん。確かにキレイでした、若くて無知でチヤホヤされている娘さん、という役どころは似合うのですが・・・やっぱり演技力の点で、どうしても物足りない。ラウルとエリックのどちらのアプローチにも、心が揺れ動いてるように見えない、のがどうにも。。。再演も、関戸クリスティーヌ(ご本人も、もう一度やりたかったようですし)で良かったのになあ。


久保くんの採用は、今までもやや”ゴリ押し”感が強く、そのキャスティング方法は、とにかく主役を数多くやらせて成長を促す、*2という手段をとってるようですが、もっと丁寧に育てて欲しいなあ、と思わなくもない。いつも実力のはるか上の配役をふられていて見ていて気の毒ですし、観客としても消化不良に終わるのがしんどいです。


今回、DVDも発売されることが決まってますが、購入するかどうか悩んでます。明らかに初演のほうが、全体的に完成度が高いので・・・。マツシンのエリックも欲しいので、今回ばかりはバラ売りだとありがたいんですが・・・。ただ、あまりに上演権が高いので、この次「ファントム」を見られるのは5年後かもしれない、なんて切ない話も聞いたので、尚のこと迷ってしまいます。

*1:スーザン氏のアイデアだそうです。

*2:ちゃんの時を思わせるものがあります。