雅・処

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貴城けいサヨナラ公演「維新回天・竜馬伝!」観劇記

見たいような見たくないような・・・とても複雑な思いで迎えた宝塚宙組公演。今更ですが、カシちゃん(貴城けい)退団公演です。わずか半年前には夢いっぱいのお披露目公演で盛り上がったのですが、今となればはるか彼方のこと、のように思います。言いたくはないが、湖月わたる君、朝海ひかるちゃんのカゲに隠れるように、あまりにもあっけない幕切れ、という感じです。


東京公演は始まったばかり、ピンで宝塚のステージに立つカシちゃんを見て、なんだかとても不思議な感じがしました。もともと誰でも最初に「トップスター」となるお披露目公演は、そのいっぱいいいぱいぶりがぎこちないものです。回を重ね、演目を重ねることでだんだん見慣れていくものですから、この違和感も当たり前。


それでいて真ん中に立ったカシちゃんの晴れの姿に、華々しさやおめでたさと幾らかの照れくささ、が交じり合って甘酸っぱいような喜びを感じました。と同時に1作退団の痛ましさやぎこちなさも入ってくるのでどうにも複雑すぎる思いで見てしまうのです。芝居のほうは、カシちゃん演ずる坂本竜馬が主人公。


激動の幕末を颯爽と生き抜いた竜馬の生涯を描いていますが、恋愛の要素は控えめでどちらかというと歴史人物に比重を置いた構成だったかもしれません。薩長同盟を結ばせ、異国の圧力に「日本」を掲げて国を動かす、というくだりは他の芝居で何度も見かけたシーンです。カシちゃんが登場して竜馬節で語り始めた時、すぐに頭を過ぎったのがブンちゃん(絵麻緒ゆう)が『猛き黄金の国』で演じた竜馬でした。全くの偶然で観劇した、ブンちゃんの代役のカシ竜馬が何度か脳裏をかすめました。


お茶目で明るく爽やか、時に熱いという、”竜馬”の人物像は宝塚で割りと定番化してるのかもしれません。カシちゃんの演技は危なげなく、気持ちよくやりたいように走り、歌うように台詞を語ってました。見ていて清々しい、清潔感すら感じる美男子(笑)の竜馬です。宙組の他の役者さん達は、一部を除き、やはり和モノに慣れていないため、ちょっとたどたどしい雰囲気でした。


よって雪組の御曹司が宙組に客演してるような感じは否めませんでしたが、歴史好きとしてはそれなりに面白く見ることができました。ただ、作品自体に特別これと言って見所があるというわけでもないし、ドラマティックな恋愛もない、さらに和モノという三重苦では一般ファンにはあまりアピールしない作品かもしれません。正直言ってカシちゃんの持ち味や魅力を出し切れる作品ではない、という感じはします。

【ショーで気になったこと】


草野先生作のショーについては、宝塚ではこれまたかなり定番なタイプのショーだと思います。場面が変わって、衣装も綺麗で、何よりロン毛(鬘)の貴公子風カシちゃんは美しい。。。2,3番手とがっぷり絡み合うようなダンディズムなシーンはほとんどなく、風のように流れていきます。カシちゃんの歌声はまろやかにとろけそうな甘さで反響し、心地良く天空から降ってきました。


これぞ見せ場!と思うシーンはあまりありません(ってちっとも誉めてないやん(汗))が、どのシーンでも麗しく、”コスプレ王子様”チックに舞っていた感じです。なんだかキャパシティオーバーで記憶が飛んでしまって・・・書きたくても書けないのがもどかしいところですが。


他に驚いたのは、北翔海莉ちゃんの歌唱力。芝居でも歌でも若さに似合わない安定感のある彼女、だとは思っていたのですが、歌はもう”カゲの2番手”(笑)状態。ちょっと持ち味がユミコちゃん(彩吹真央)に似てきた気がします。まだ若いのにこの落ち着きが、少々微妙ではありますが。


ところで私が無性に気になったのは、大階段の群舞のシーンでした。(1度しか見ていないため、単なる見間違いや勘違いだったら申し訳ない!)私の中のイメージでは、トップスターの大階段定番は、以下のような段取りが定番だろうと思っています。

 ①幕が上がって大階段中央に出現(主に黒燕尾姿)
 ②ピンスポットが照らす
 ③軽くソロダンス
 ④1,2章節ほど歌のソロ
 ⑤他の男役が一斉に上段から下へと歩み降りる
 ⑥トップスターを中心にして数十名が段上に揃う
 ⑦男役を従えて、華麗な群舞へ


黒燕尾でない衣装ももちろんありますし、たまにイレギュラーな隊列(?)を組むこともあります。今回の群舞ではカシちゃんは、下から3段目の辺りに立ち、ナナメに上方へV字形を描くように男役が並びました。その後も隊列はあまり大きく変化せず、すぐにステージへと移動し、群舞となります。


更に娘役の紫城るいちゃんが登場した時にも、カシちゃんは階段を上っていかなかったような気が・・・?大概、娘役が階段の上から下へ降りる時は、男役は下から上へと上がっていって階段中央部で揃って少しの間見つめあって踊ることが多い、と思うのですが、そんな振付ではなかったようで。


記憶に自信はないので単なる思い込みかもしれませんが、大階段の中央にカシちゃんが立ったのは最後のフィナーレの羽のシーンだけ?そういう演出だとしたら、最後を飾るのになんだか随分と愛がない演出だな、と残念に感じました。サヨナラ公演なんだから、泣かせどころをもっと用意して欲しい、と思ったのです。


とはいえ、また次に見られる保証はないので、「今日のところは泣いてる場合じゃないのよ!」と自分を鼓舞させていましたが。

【カラッと最後のお茶会】


その夜は、カシちゃんの宝塚最後のお茶会に参加しました。ハードワークが続いているせいか、始まった当初はさしものカシちゃんにもいつもの元気がなく少々気になりましたが、トークが進んでくるとどこかからパワーが沸き出てくるのか、存分に話してくれたカシちゃん。ファンの前ではサバサバと涙は見せないアネゴぶりが素敵です。


「15年間の宝塚人生を振り返って一番大きかったことは?」の問いに「宙組への異動」を挙げていました。確かにそれはものすごい一大イベントだったわけです。カシちゃんのみならず、宝塚ファンみんながひっくりかえった事件でしたし(笑)。でもその言葉の中にあったのは、何か一つの大きな山場を乗り越えた充実感だった気がします。悲愴な響きは全くありませんでした。


宙組貴城けい、で卒業することへの達成感、自分に対するプライド、そして周囲への感謝、それらがカシちゃんの顔を一際凛々しく輝かせていた気がします。退団後のカシちゃんの人生も決して平坦ではなさそうですが、一歩一歩ゆっくり着実に地固めをしてしぶとく(笑)活躍してくれたら嬉しいです。


遠いいつか、誰も知らないような小さな芝居小屋で、ひっそりとカシちゃんを見られる日があったら、それも幸せかもしれませんね。