雅・処

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スタジオライフ「LILIES」こぼれ話(1)

感想なんて書けない・・・

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カナダのケベック州、禁じられた同性愛の罪で投獄されている一人の初老の男シモンが、囚人達と繰り広げる再現劇。劇の観客はたった一人。かつての級友であった神父ビロドー。シモンにとってかけがえのない存在であったヴァリエへの回想から、愛と裏切りが交錯する幕が上がる。


劇団スタジオライフの観劇レポなどを書き始めてから数年、どうしても書きたくても書けない作品が一つだけあります。来月、3度目の再演が決まっている'02年版『LILIES』(初演)です。もちろん、7年も昔のことなので、鮮明な記憶が消えているのは当然なのですが、その翌年の再演DVDが発売されているので、芝居の台詞や内容が分からなくなることはありません。


ただ、あの時の”言葉にならない衝撃”を文章にしても、陳腐になってしまう・・・その恐れがありました。それだけ'02年に出会った『LILIES』という舞台は、めくるめく混乱を招き、胸の中に圧倒的で静かな熱狂を起こした舞台でした。私の決して多いとは言えない観劇の体験上、この時の芝居を越える感動はいまだかつてなく、もしかしたら今後も起こらないかも・・・と思えるほどです。


 今まで生きてきた中で一番衝撃を受けた作品


ということが、7年経った今でも心に刻印されたことです。思い出は、当然美化されているかもしれません。当時、初演と再演で(スタジオライフファンでない一般の)友人を連れていっても、「よく分からない」とか「面白かったよ」と軽く終わって失望を味わったこともあります。当たり前すぎる現実ですが、「誰にとっても傑作」なんて芝居はあり得ません。そして、私達が芝居を選ぶ以上に、この芝居は”観る人を選ぶ”作品だと感じました。


初演の初日を見た時、観終わった後で頭が真っ白になって、家に戻る途中も動悸が止まりませんでした。なんだか、頭の中はもやもやした気分で、すごい大変なものを観てしまった・・・というショックと興奮に言葉にならない状態でした。今でもまったくもって収拾つかない状態で、また収拾つけたくない気もあります。それでいながら、何か書きたいぞ(笑)、というわがままな思いもあるので、当時のこぼれ話、ということでいくつか挙げ、来るべき再々演に繋げようかなどと思いました。

【伝説は静かに始まった・・・】

  

石飛さんも(ネットラジオ)で言ってましたが、当初『LILIES』という舞台はそれほど皆の期待が大きい作品ではなかったのです。それまで、主演級だった笠原浩夫さん、花形女役?の及川健君、劇団のホープ岩崎大君などが外部出演などで出払っており、間隙を突いた形での地味で小ぶりな小芝居だな、と思わせました。登場人物も(ダブルキャストですが)たった11役です。


主役は、甲斐政彦曽世海司山本芳樹高根研一という新鮮な組み合わせ。高根さんの主役は、初めてだったので驚きましたが、その分、どんな舞台になるんだろう・・・という興味が沸きました。そして、私にとって鍵を握ったのは、ロンドン演劇留学帰りの林勇氏。帰国後、前作『月の子』で圧倒的な存在感を見せた、その彼も出る作品。迷わずチケットを多数申込みました。*1


その後、わずかに漏れ聞く情報で、カナダの作家ミシェル・マルク・ブシャール作の戯曲である『LILIES』の英語版プロットを林さんが翻訳し、倉田さんに伝えた、ということや、「百合の伝説」という映画にもなっている、と知りました。映画のほうは、かつてレンタルビデオで借りた際に、あまりにつまらなくて途中眠ってしまった、という苦い思い出があります。


ただ、演劇を勉強してきた林さんが「すごく面白い作品!」と断言していたのと、稽古中の役者達が難しい芝居に格闘している様が伝わって、期待は徐々に高まりました。出来たチラシやパンフも、男二人が白ブラウスに身を包み寄り添い合う、という意味深すぎる「これでもか耽美!」攻撃で、だんだんこちらも気合が入ってきたものです。


そして二つのチームは、ライフとしては珍しくも、別々に分かれて稽古していたために、幕が開くまでお互いの芝居がどのように作り上げられているのか、知ることが無かったということです。開けてビックリ玉手箱・・・となったのか、両チームを見た人が「全然違って面白い」と言っていたことが、見てる観客達にもそのまま引き継がれました。

【開演5分前、異常な緊張感から静まり返る観客席】


ライフ特有のオシャレなチーム名はそっちのけで、キャストの年齢から「アダルトチーム」(甲斐&曽世)「ヤングチーム」(山本&高根)と通称で呼ばれていました。ご贔屓の林さんは、ヤングチームということでこちらを重点的に見たのですが、それまで屈折した青年役を演じることが多かった芳樹君が、予想もしなかった乙女モード(「ヴァリエは、乙女なのよ!」by倉田女史)で現れ、まずそこで魂を奪われました。


どこか不安げな高根シモンにまっすぐの愛を向ける芳樹ヴァリエの可愛らしさに煩悩にさいなまれそうになり、ヴァリエの”母”伯爵夫人を演じる林さんの、浮世離れした悲しく美しい女性役に感涙。一方で、アダルトチームも、彫刻のように白い筋肉がなまめかく美しい曽世ヴァリエが、色黒で男らしい甲斐シモンへ哀切こもった眼差しを向ける・・・艶っぽい舞台が展開されます。芝居巧者の楢原さんが、慈愛を感じさせる伯爵夫人を演じきっていて、こちらも唸らせる芝居でした。


緻密に描き込まれた脚本と、役者全員が最初から最後まで舞台の上に残るという斬新な演出が緊張感を高めて、目を離すゆとりもありません。今でも泣きはらした芳樹君が出番を終えて端に引っ込んだ後、林さんに寄り添われ、背中を小刻みに震わせながら、さっきまでの激情を抑えていこうとしていた姿(→幕がないため、丸見えなのです)が目に焼きついています。


ファンは、もちろん自分のご贔屓役者が出るチームを集中的に見に行くが常ですが、両チームが全く違うアプローチで、目が離せないほどスリリングな展開と、ほとばしる情熱が漂う芝居に、日を追うごとに評判と話題が高まっていき、思いもかけない相乗効果を巻き起こしていきました。その「熱さ」は、除々に役者から観客へと伝播していき、ジワジワと感性を侵食し、熱病が起こったのか、というほどに。


終演が近づくにつれ、客席が作り出す”尋常でない熱気”は演じている役者達だけでなく、客席案内をしていた藤原さんにもヒシヒシと伝わっていったようです。当日券の列には、かつてないほどお客さんが並び、狭い通路に座布団を2列を敷いて座らせる*2、楽日にはそれでも入りきれず、泣く泣くお詫びをしたとか。紅潮した藤原さんが「シアターサンモール始まって以来の動員数です!」と告げていました。


客入りだけがすごいわけではありません。これも終わりが近づくにつれですが、リピーター続出のこの芝居は、開演5分前のブザーが聞こえると客席がシーンと静まり返る、という不思議な現象が起こっていました。普通、暗転し芝居の音楽が聞こえるころまで誰かしらお喋りを止めなかったり、わさわさしているのが常である観客席が、誰も注意をしないというのに、あまりの緊張感に静かになってしまうのです。


そんな異常さに、客席で座っている私達自身、可笑しくなって笑ってしまいました。しかし、その笑いが収まるとまたシーンとなってしまうのです。あまりにもピリピリとした空気が張り詰めてて、何かがきっかけでプチっと切れてしまいそうなほどでした。あんなに舞台の役者と観客が一体化(世に言う、安直な一体感ではなく)した舞台というのは初めてでした。食うか食われるかの真剣勝負のごとく、です。ここはもはや東京新宿御苑にある小劇場空間ではなく、ケベックの刑務所か、と錯覚するほどのリアルさでした。


千秋楽は、誰にそそのかされたわけでなく、自発的なスタンディングオベーションが巻き起こり、両チームの役者が驚き、”素”に返って喜んでいたのが印象的です。私の方は、熱病に浮かされつつ通い遂げた・・・(笑)という達成感に近いものと、同時にもうこの最高のキャストで再び出会えることはないのか・・・という悲しみと虚脱感が残りました。しかし寂しさは、はからずも”一年後の再演”という形で、覆われることになります。


(つづく)


www.studio-life.com


奇跡の初演から1年後の再演時のDVDです。私が愛してやまなかった山本&高根コンビですが、初演とは何かが違って感じられました。楢原さんも素晴らしいのですが、林さんの伯爵夫人が映像に残らなかったのが、かなりの痛手でした。


miyabi2013.hatenablog.com
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*1:結局、当日券も増やし、なんと12回も見てしまいました(大汗)。

*2:消防法の関係で現在は禁止されているようです。