雅・処

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キャスト良し、犬演技良し、なのに満足できない映画『ひまわりと子犬の7日間』

堺雅人さんの2012映画ラッシュの最後を飾る、「ひまわりと子犬の7日間」の初日公開に行ってきました。あまり期待していなかったので(失礼)、あやうく行きそびれそうになりました。春休みということで、子供を連れた家族連れで大賑わいの映画館でしたが、この「ひまわり」はむしろシニアの観客が多く、上映中の雰囲気を見ても動物好きの人が多かったみたいです。


私自身は、もともと動物全般が苦手で、犬に対しても特別「可愛~い!」と慈しんだ思い出がありません。むしろ、子供の頃に吠えられたり、追いかけられたり、襲われそうになったり、近所の犬騒音にも悩まされたりと散々な思い出ばかり。


最近になって、「防犯にもなるし、子供代わりに犬でも飼ってみようかな・・・」と思うこともあるのですが、やっぱり”一つの命”である以上、あまり安易な気持ちで飼うことはできないな、と思ったりもします。いい加減な世話で、狂犬化してしてしまった犬も見たことがありますし、その犬が保健所に連れていったという事実もありますし。


そんな犬苦手の私ですが、堺さんが出演するならば、ということで映画館へ行きました。フィクションとしてならば、過去に「犬笛」や「炎の犬」など優れたドラマで興奮した覚えもありますし、ハチ公物語などの実話にも感動しますし、割り切って楽しもう!と思っておりました。以下、思い切りネタバレです。

【キャストは合格点!】


この映画、最初に主人公である”ひまわり”の生い立ちが流れます。そこが短いながらも、なかなかの出来栄えでまずホロリって情に訴えてきました。その後、堺さん演じる神崎彰二という保健所職員が野犬化したひまわりとその子犬3匹と出会うところまでは、流れるように進んでいきます。


とりわけ印象的なのは、保健所に留置された犬たちに与えられた殺処分猶予期間が7日間しかないということや、実際にどのように命を奪われているか、映像で語られているところでしょう。もちろん、殺された後の姿を映すような残忍な映像はありませんが、子供向きのほのぼの動物映画でないことは一目瞭然です。


堺さんの演技は、全編非常に見ごたえがあります。神崎の気持ちに共感しやすいキャラクターですし、やはり当人の持ち味としての優しさが直球で見えてくるからじゃないか、と思います。宮崎弁でのリアルな台詞回し・・・は、逆にちょっと違和感があったりしてますね。


何せこの数年、沖縄弁や京都弁やいろんな方言を話す堺さんを見てるので、あくまでその延長にあるかのような感じで、彼の話す宮崎弁が果たして「ネイティブの上手さ」は分かりませんでした。内容が分かるように多少純度を落として標準語に近い言葉を選んでるらしいです。昔、九州出身の知人がいたので、ちょっと懐かしいなあ、と思い出しましたけど。


そして、脇役のキャストがとにかく素晴らしい!でんでんさんのクスっと笑わせる味わい深い台詞にホッコリ。また、オードリー若林君が、やる気なさそうな現代っ子の職員を演じてて、これが意外なほどハマっていて、かなり良かったです。更には、中谷美紀さん。


中谷さんってどの映画やドラマでも一本芯の通った感じの女性を演じていて、凛々しい女優さんなんですけど、優男の神崎を叱咤激励するサマがカッコイイし、とってもチャーミング。堺さんとの対比で、ピッタリ合う感じの女優さんだと思わず、嬉しい誤算でした。いつかガッチリ組んでの再共演をして欲しいです。


堺さんの亡き妻役に壇れいちゃん。相変わらず綺麗だわ~、壇ちゃん。それにしても、まさかあの壇ちゃん(←宝塚時代に一番見た娘役でしたので)が、堺さんの奥さん役で出てくるとは思わず、ちょっと感慨深いものがありました。一瞬だったのが残念で、言葉を交わすシーンとか見たかったですねえ。


すでにメディアでも絶賛されている犬の演技は、言うことなしです。一体、どうやって調教したのかしら?と思うほど、やたらとリアルでした。犬が主役なんですから、そこがダメならどうしようもないですけど、見事というしかありません。子犬も可愛かったですし。


【父娘の描き方がどうにも我慢できず】


但し、中盤からこの映画、失速します。殺処分を避けようと飼い主を探したり、人になつかない母犬(ひまわり)に愛情を示そうと必死に努力する神崎と、彼の幼馴染みで獣医の美久(中谷)、家族や上司・同僚など、周りの人間像を描きだすのですが、そこで焦点がぼやけてくるのです。


いっそ物語を犬と神崎に絞ってしつこいくらい丁寧に描けば良かったんではないか、と感じなくもない。保健所に入れられてからの犬の描写が単調になってしまった気がします。集中力が途切れて、映画の途中で睡魔に襲われました。同じことをドキュメンタリー映像にして、淡々と保健所の描写をやっていたほうが、むしろ琴線に触れたと思います。


神崎の周囲の人々を中途半端に出すので話がブレてくる。特に私が苛立ったのは、娘・里美と神崎のやりとりです。愛犬一家である神崎家では、(保健所から引き取った)2匹の犬が飼われていて、当然、11歳の娘も大の犬好きです。彼女は、大好きな父親が犬、殺処分しているという事実を知り、ショックを受けます。


父親の仕事について理解ができず、最初は拒絶したり。それでも保健所で現実を知り、「母犬と子犬たちを何とか救ってあげて!」と懇願し、神崎の決心を固くさせるきっかけになるという話の展開です。これ実話を題材にしてるとは言ってますが、里美とのやりとりって本当にあったことなのかな?


たとえあったとしても、あまりに”道徳の授業”みたいな一コマに辟易しました。11歳の子供が、親の仕事の内容を理解できずわがまま言ったり、拒絶するってアリ?他のシーンは、厳しい現実もちゃんと伝えようと多少トーンを落としている感じですが、娘とのシーンに限って、日本ドラマの典型的な、言い換えれば”つまらない展開”を見せるんで、「ちょっと待ってくれよ」って感じになります。


どうしても家族のことを取り上げたいのならば、もっともっと見せ方はいかようにもあったはず。娘とのシーンだけは、ありきたりで展開が読めてしまう上に、かなり偽善的な感じがしてウンザリしてしまいました。子役についても興味があり、古今東西結構いろんな映画を見てきてますが、これは演じた少女役の子がダメなんじゃなくて、個性を殺すような演出&脚本なんだと思います。


さらにオチもいただけない。さんざん、新しい飼い主を探して奔走する神崎ですが、最終期限ギリギリで初めてなついた(奇跡の一コマ)ひまわりを飼うのが結局、神崎家なんですもの。「それなら最初から飼えばいいじゃん!」と思ってしまったのが、正直な気持ち。(野犬は人に危害を与える危険性が高いので誰でも飼えるわけではない、という前提ではありました。)


もし実話がそうだとしても、そこには葛藤がもっとあったはずです。なんか裏切られたような気持ちになるラストって・・・ちょっとどうかなあ、と思ってしまいました。脚本がコナレてないため吸引力が落ちる、時代遅れの感動をあおる演出が空振り、やっぱりそれに尽きるかなあ。いつものように堺さんはいいので、見ごたえはあるんですけどねえ。