雅・処

好きなアイドル・俳優・映画・演劇などエンタメ一般やスポーツについて自由に語ります。

1人の役者 ノスタルジックな回顧録(1)

劇団スタジオライフに関連して、役者についていろいろと書くことはありましたが*1、そういえば役者本人についてガッツリ書く事ってあまりなかったなあ、と思いました。


退団を機に、というのはなんとも皮肉ではありますが、逆に一つの分岐点として過去を遡り、自分が過去に何をどう感じたか、改めて記しておくのも悪くないかもしれません。乗り越えなければならない1つの試練・・・でもありますしね。


今まで好き勝手、書き連ねてきたのですが、たまには本当のファンらしいところも見せないとね。ということで、林勇輔氏にズームイン!(古い)

①蕾子様、リターンズ


林さんとの最初の出会いは、劇団イベントでした。確か2001年頃(林さんが『月の子』で鮮烈に復活出演する直前)のことだったと思います。スタジオライフの伝説のおちゃらけ芝居、綾小路三姉妹の小芝居のこと。長女薫子:笠原さん、次女華子:石飛さん、がノリノリで演じるイベント恒例の爆笑芝居でした。そこへ新たに登場したのが、イギリス帰りの三女、蕾子様。


長い黒髪のカツラをつけ、スリットの入った黒いドレスから、よく引き締まった筋肉質のふくらはぎを見せ、ハイヒールで颯爽と登場した林さん。スポットライトを浴びて、私のすぐ横の通路を通ってステージに上がっていく姿は、不思議なくらい神々しく、今でも瞼に焼き付いてます。小柄で、女性そのもののシルエット、見慣れないお顔に目が釘付け。


それ以上に圧倒されたのが、毒舌の鮮やかさ。一歩ステージに上るやいなや、先輩である笠原さんや石飛さんに対しても「オネエ様」と呼びながら、遠慮なくツッコミを入れていく、機転のきくサマも度胸の良さも天下一品。すでにライファーとなっており、他にお気に入りの役者さんもいた私でしたが、一瞬で心奪われました。


「一体この人はどんな演技を見せてくれるんだろう?」と、その瞬間から気になって仕方ありませんでした。劇団員でありながら、休団してイギリス留学で演劇をキチンと学んできた本格派との紹介もあり、「早く芝居を見てみたいなあ。」と思ったものです。

②月の子(2002年)


そしてその直感は、『月の子』で現実となりました。アートスフィア(現:銀河劇場)という、当時の劇団にとって、破格サイズの劇場での公演。原作は、人気漫画ですし、キャラクターの画がとても綺麗なだけに、一抹の心配もあったりして。


蓋を明けてみると、この『月の子』はなかなかのスマッシュヒットになりました。FC会員数が一気に増えて*2、その後の数年、「スタジオライフ・バブル期」が続いたほどの影響がありました。


そして、そのヒットの一つの要素にもなったのが、林さん演じるセツでした。原作でも人気のあったキャラクターだと思いますが、三つ子の”美少年”兄弟の中でもちょっと内気で繊細で体が弱く、最後は女性化します。


林さんは、明らかに切り過ぎじゃないか、と思うような前髪パッツンの”デコっぱち”、ちょっとビミョーな外見で現れて、原作とのあまりの造作の違いに、最初こそ「おいおい」と内心思いました。いや、いくらナマの人間だからといって、年齢不詳の男性そのもので現れるんかい!って。ところが、一旦演技が始まるやいなや、まるで魔法にかかったように魅せられてしまうのです。


少年のあどけなさを感じさせる高い声、澄み切った笑顔、そして高根ショナへ向ける切ない眼差し。劇中ではあまり説明されていなかった、ショナへの恋心を高めていくサマを「あの、しお・・・シオ・・・塩、ください」という台詞に集約させた見事さにゾクゾク。


もう、そこに立っているのが一介の男性だなんて思えなくなるほど、一つの役を生き生きと表現してくれて、芝居中かけられた魔法は、上演期間中、延々私を虜にしておりました。その後、15年間にわたって続くファンの始まりとなった忘れられない作品。


今となると、「林さんの性格は、こんな感じで・・・」と実像がだいぶ掴めてきたのですが、この時はまさに「セツ」という役が全てで、それ以外はまっさら状態だっただけに、一層のめり込んで、おそらくファンとして一番幸せなひととき、を享受していました。


「月の子」という作品にそこまで心奪われた、というわけではなかったのですが、林さんのセツには尋常でないのめり込みでした。もう、好きすぎて苦しい、って感じ。いいですね、ピュアですね~(笑)。林さん自身なのか、林さんの演じる役そのものなのか、定かでない。ただ演技力がオーラのように彼の体中にまとわりついていて、発光してるんじゃないか、て感じるほどでした。


また高根ショナがかなりの男前で、林セツを受ける熱い芝居が良かったのです。「ベストカップリング賞」とか言われて一部で大盛り上がりでした。大阪のイベントの時は、2人をファンの前に並ばせて感想を聞こうとすると、素で林さんが顔面真っ赤になる、という超萌え~な瞬間もありました。本当に楽しくて、この時に戻りたい!!って今でも思ってしまいます。

③LILIES(2002年)


伝説の「LILIES」初演が、熱気冷めやらぬ「月の子」の次の芝居でした。ここでも私は狂います。その狂い方は、半端なかった。何せ、この芝居が人生最高、といまだに思ってしまうほどに芝居の世界観がモロ好きなのですが、林さんの演じた”伯爵夫人”は、この芝居のキーポイントという役柄なのです。


芳樹高根コンビもまたステキだったから尚のコトでした。難しい芝居を、少人数で創り上げていこうという勢いが全員に漲っていて、客席も一緒に吸い込まれるようにして見入っておりました。


今考えると林さんも20代後半(!)で、この難役を演じていたのですね。まさに恐るべし、です。ある時は、うら若き乙女のように、またある時は老婆のように抜け目なく、現実と夢の堺を彷徨っている母親役。彼女は、狂人かもしれない、病んでいるのかもしれない、いやもしかしたら正常なのかもしれない、そんな魂が揺れ動いている女性で、いろんな解釈ができます。


そこでもいかんなく発揮される、透明な高い美声。ご本人は、コンプレックスだった*3というほど男性にしては並外れて高い声ですが、私には最高の武器にしか思えません。たぶん、普通の男性の声だったら、きっと私はそこまで林さんに魅了されてはいなかったと思いますから。


「貴方は僕の愛・・・」ヴァリエの手紙を読み始める時の声がまるで子守唄のように優しくて、溶けるようで、悲しく美しい旋律で全身に震えが走るようでした。劇団の代表作となったこの作品は、その後、4回再演を繰り返したのですが、伯爵夫人役をもう一度、林さんで見ることは叶わぬ夢、になってしまいました。


この時はまだ、「ご歓談タイム」というファンサービスがあり、イベント日には芝居が終わってから役者と語らうことができたのですが、その短い時間で、作品についてのポイントや裏話なんかをご本人から聞けるのが最高に楽しくて、これがまた”ビョーキ”を加速することになったんだと思います。作品やその役どころが好きだと、どんな些細なことでも嬉しくて。


いやあ、当時は若気の至り、とはいえ、なかなかに熱すぎて(林さんにとって)さぞかし”イタイ”ファンだっただろうなあ、「その節は大変失礼しました」とこの場を借りて反省の弁を述べさせて欲しいです。


(次回へ続く)


*1:姉妹ブログのほうに、ですが。

*2:確か500人ぐらい増え、チケット入手困難時期も続いたのです。

*3:若かりし頃、カセットテープに吹き込んで聞いてショックを受けたそうです。