雅・処

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スタジオライフ『ファントム』観劇記(1) 林勇輔編

キミが居続けていてくれて本当に良かった・・・

昨日まで、スタジオライフの『ファントム』を連続観劇してきて夢心地、心奪われておりましたが、その至福の時は、たった一日後の今日、シビアな現実を突きつけられて崩壊、まさに”天国と地獄”を実感してしまいました。しかも今はあれこれ書くには時間が足りない。それでもこれだけは書きたい。葛藤と強いショックを受け、かなり心乱れ状態で収集つきませんが、書きます。書かせて下さい。


スタジオライフの超個性派俳優である林勇氏。陰の主役(笑)チックな作品は今までも多数ありましたが、主役級となると2004年の『パサジェルカ』以来。見応えのあるシリアスな作品は、2007年『孤児のミューズ』以来だったかもしれません。もちろん、その他の大多数の作品群には、ほとんど彼の名前がありました。それでも、タイトルロールの文字通り主役というのは、「林さんの芝居で始めてではないかしら?」と思い、今回、初披露の『ファントム』を彼のために2回見ることを決めました。


もともと、イギリス演劇留学から帰国後のスタジオライフの本公演、『月の子』で彼の芝居を見て電撃ショックを受け、私は狂いに狂いました。わが人生で初の13回連続観劇。半分以上は、林さんの演じる少年セツ恋しさのためでした。さらに、演劇観全てを覆すような運命の作品『LILIES』での伯爵夫人が脳天にトドメを刺し、『スリーメン』では、彼のあまりの多芸ぶり(歌える、毒舌で笑わせる、身のこなしの器用さと表現の豊かさにシビレる)に圧倒され、この人は演技をするために生まれてきたのではないかと、魅了され続けていました。


しかしいつの頃からか、私の中で少しずつ倦怠期(?)を迎えます。最初のきっかけは、無名塾の『森は生きている』全国ツアー参加で、1年間も、林さんがスタジオライフから遠ざかった頃。やっと戻ってきた頃は、有望新人ジュニ7の修練期にぶつかり、林さんはバイプレーヤーとして活躍することが多くなりました。確かに”何でもできる”役者は、逆にいいように使いまわされてしまうきらいがあるのかもしれません。そんな時期でも山本芳樹君は主役三昧でしたが、彼とはおそらく”役割が違う”のでしょう。


若手の成長を支えながら、数多くの芝居・配役をこなしていき、見る度に新鮮で輝いていた彼の演技にいつしか私も驚きを持たないほどに見慣れていきました。さらにアクの強い、彼特有のシニカルな笑いのセンスを生かした役どころも続き、どんな役を演じても既視感すら感じるようになっていたのがここ最近の状態でした。この時期、林さん自身の演劇への情熱ももしかしたら停滞し、悩んでいた頃だったのかもしれません。

【スタジオライフが他の劇団と違うところ】


彼は、劇団内外の観客に「上手だよね」「うまいよね」と言われて褒められることの多い役者です。統計をとったことはありませんが(笑)、よほど苦手意識が高い人でなければ、まあケナされることの少ないテクニカル面で安定した役者です。とかくライフの役者は、感情のブレ(起伏)の激しいのが特徴で、抑制が効いて一定レベルの演技をコンスタントにできる役者はかなり限られていると思います。


プロという視点で言えば、「そんなのプロじゃない!」と非難されてしまうかもしれません。それも一理あります。ただ一見するとマイナスポイントでありながらも、私のような天邪鬼は、こういう予測のつかない人間味が何よりも変えがたい劇団の魅力でありました。「初日はゲネプロ、千秋楽は奇跡の舞台」などと揶揄してしまうほど、怒涛のような感情の高まりあり、ナマの舞台の醍醐味を秘めているのです。


ただし、それはいつも起こるわけじゃない。限られた芝居、特に後に名作と語り継がれ、再演を繰り返すような一握りの作品(とりわけ初演)にだけ、この魔法のような時間が宿っています。それに運悪く(笑)捕まってしまった人は、取り返しのつかない観劇地獄にハマってしまうという恐ろしさ。スタジオライフをただのイケメン男優集団とかイロモノ劇団と呼んでいる人々は、この劇団の真の恐ろしさを知らない”幸福な人たち”なのです。

【「ファントム」の林勇輔】


今回の舞台で、輝かしい主役の座に久々に舞い戻ってきた林勇輔氏。いつものように高くて耳障りの良い声と、計算し構築し尽した演技を見れば、そりゃあこれまで見てきた役者だけに、その演技は予測不能ということはありません。ただ、同じではありませんでした。大体、前髪をたらしてる林さんを始めて見ましたもの(笑)。


少年役が似合うスレンダーなボディと、気恥ずかしくなるような白レースの大きな襟をひらめかせた高貴なお坊ちゃまファッションなど、ある意味、ビックリする外見上の仕掛けも多々ありました。


それに「ファントム」のトレードマークのマスクがあります。顔の半分を多い隠し、怪しく光る目だけを残して役者の表情を半分以上隠してしまうという、邪悪な小道具。目は少々アイラインを濃いめに引いていたようですが、マスクの隙間から覗く目の演技はじつに強烈。当初の心配などすっかり忘れてしまうほど、絶望の世界に生きるエリック少年を投影させていました。それらが私の見たことの無い、いつもとどこか違う、新しい林さんを浮き彫りにしました。


そして表情が制限されてしまう分、身体の表現は豊かで圧倒的でした。ダンスをするように華麗に動き回る軽やかな足捌き。感情が爆発したときのジタバタと床を蹴り上げる動き、檻の中でジャベールに殴られ蹴られる時に空中に飛び上がりたたきつけられる身体、ジプシー小屋で見世物にされる絶望での自虐的で華麗な振舞い、イタリア芸術に魅せられ恍惚としながら建築デザインの造型をなぞる指先と腕の動き、舞台に反響する高い声と、ひとときも止まることのないしなやかな身体の動きに魅了されまくりでした。


林さんはエリックを”演じる”のではなく、まるでその霊に”憑依”されているようでした。どんなに乱れても、ほとんど冷静さを失うことのない、心の乱れを感じさせないほどの強い自制心を見せていた彼が、この役にどれほど溺れていたかは、前楽での3回目アンコールの瞬間に実感しました。波のように自然に起こったスタンディングオベーションを目にして、舞台の上で両手に顔を埋めて泣きじゃくる林さん。


肩を揺らし、まるで子供のようにしばらく泣き続けた後、再びマスクを被って、それでも泣き止むことができずに(力を振り絞って)うやうやしく貴族のお辞儀をした林さん。同期の及川健君が良かったね、と目配せしてそっと肩を抱いたことでまた涙。こんなにも人間的で、感情の高まりと喜びを素直に出している林さんの姿を、初めて目の前で見て涙が止まらず、しばし嗚咽。

【役者バカが、役者を辞めようと考えたとき】


更に今日の感動的な千秋楽では、「数年前、劇団も役者も辞めようと思って倉田さんの元に行った。」というコメントがあったそうです。まさに”役者バカ”というくらいの激しい情熱を持っているのに間違いない、林さんのその衝撃的な過去話を聞いて、私は自分の沈んだ気持ちを一瞬あちらへと置き、遠い地元で夕空を見上げて思いにふけってしまいました。


カタギの生活がしたい、やっぱり役者は向いてない、ここでは自分は出せない等々。いろいろな理由で劇団を去る役者は沢山おります。どうしてもその堅い意思と動き始めた人生の舵を変えることは難しいのだと思います。その時、林さんは何故、辞めなかったのか。倉田さんはどう言って引き止めたのだろうか?劇団を辞めるのはともかく、役者を辞めるなんて発言は、林さんにはあり得ないと思っていたので、一撃をくらいました。


写真だけ見たなら、決して飛び抜けて華があるわけでもない容姿(失礼)ですが、その高く透明感のある声とカツゼツの良い台詞廻し、いつ聴いても耳に心地良く素敵な歌声、何より魅力の一つである生来の”名女優”ぶり、多才で多芸で器用で、度胸があって、他の役者の持っていないあらゆるセンスを兼ね備えていて、その一つでも欲しいと羨望を受けるような才能に溢れている、役者の一人。


確かに彼のあれだけの才能を生かせるような役を外部公演で見出すのは難しいかもしれません。何作か見ていますが、林勇輔にしかない独特の魅力をあますところなく見せつけることはそう簡単ではないようです。負け惜しみではないのですが、彼の本当の魅力を分かって、それを料理できるのは倉田さんしかいないかもしれない。劇団スタジオライフだから、彼は自分の持ち味をいかんなく発揮できるのだと思います。


それゆえ、彼の底知れぬパワーを知っている倉田さんは、誰よりも強い、彼の”演劇への情熱”を時にセーブして使うことができるのかもしれません。林さんは勘が良いし、基本的に頭の良い人、観察力の鋭い人ですから、ある程度は倉田さんの思惑を理解できて、お互い演技を通してキャッチボールができるのだと思います。


ただそんな彼でも迷い、悩み、自分を見失った瞬間があったのでしょうね。どんなきっかけで役者の道を諦めるのを止めることができたのかは分かりませんが、林さんが今日の千秋楽で「もう二度と役者を辞めるとは言いません!」と宣言したとのことですから、ホッと胸を撫で下ろしました。


器用な人だから、辞めても食べていくだけの何らかの技量は高いと思います。かといって、アナタのように演技に魅せられている人は本当に芝居をやめられるの?って感じでもあるのですけど。


役者にとって、舞台の上で”昇天”できるほどの役に出会え、観客の熱狂と感動を呼び起こすことは何よりの報酬なんだと思います。「ファントム」のエリック役は、林勇輔の猛烈な役者魂を呼び戻し、真に彼を救ったのかもしれません。役者・林勇輔のファンで居続けられる幸せをまた私に与えてくれたこの作品に、限りない感謝を。


芝居の感想でも役の印象ではなく、ただただ林さんに捧げるとりとめもないラブレターでした。後日、観劇記も書くつもりですが・・・。


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