雅・処

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「チェリまほ THE MOVIE」感想(後編) ネタバレ含む

理想を追い求めたら、凡作になってしまった後半

少し遅れましたが「チェリまほ THE MOVIE」の続きにいきましょう。この映画を観て疲労感がドーンと押し寄せてしまったエピソードが中心です。

安達の成長があまり見られなかった転勤話

原作では、黒沢と結ばれた後のエピソードとして出てくる安達の長崎転勤話。戸惑いつつも自分へのチャレンジと思って頑張り、独り立ちしてちゃんと成果も残していたんですよね、原作の安達は。


ところが映画は、慣れない環境と黒沢への罪悪感と寂しさを紛らわすように必死に残業して、挙句に昏倒してしまう安達。安達が事故にあった!と大慌てで駆け付ける黒沢、という内容に変わっていました。


これはエールクリップのプレゼンを頑張っていたドラマの延長のようで、安達がサラリーマンとして逞しく成長して見せる場面が与えられず、ちょっと気の毒に感じてしまいました。


同じネタを脚色していても人物描写はドラマを主軸にしているから(自信がなく自己肯定感の低い安達)、原作との齟齬が発生してしまうのは仕方ないとはいえ、もうちょっとスキルアップした安達もちゃんと見せてあげて欲しかったですね。

湊と柘植のほんわかシーンは癒しの時間

今回は、安達と黒沢に力点を置いての映画でしたから、サブカップルの割に場面の少なかった柘植&湊コンビ。ただ、少ないわりに彼らの出演シーンはどれもとても良かったです。


黒沢への愛を感じながらも、まだすべてを受け止めきれていない安達とは異なり、もはや関係が安定して揺らぎが少ないオトナなカップルに見えたのもあるかもしれません。


湊を愛してるのに、深層心理として「作家として満ち足りたらスランプに落ちてるのではないか」と悩む柘植。湊は一歩引いててどっかと構えている。恋愛には奥手の柘植を無意識に転がしてるところがある。


見た目も凸凹コンビですが、どことなく可愛い2人。いつものカフェのテーブルで向き合い、意を決して「一緒に暮らそうか」と伝える柘植に、ニッコリとほほ笑んで承諾する湊。


うん、なんかほんわか幸せで良かった。

正直、全カットでお願いしたかった家族への挨拶シーン

私が「THE MOVIE」で一番不要に感じたのは、安達家と黒沢家の「僕たち、本気で付き合ってます」とカミングアウトする挨拶シーンでした。一言でいえば、尺が足りなすぎ、そしてご都合主義がひどすぎ


あの真面目な安達と黒沢なら、家族への挨拶ってイベントがいずれ起こり得る場面であるのは分かります。でも、そこにはある程度の根回しというか準備は必要でしょう。(確か原作でもまずは親たちの前に兄弟に事実を打ち明けてから少しずつ歩み寄ったはず)


どう考えても何も知らない両親にいきなり、男性のパートナーを紹介する、って唐突すぎじゃありませんか?相手は、自分の息子がノンケと信じて疑わない妙齢の親御さん達ですよ。


海外ドラマだと、かなり早い段階から家族ぐるみのエピソードを入れて、家族状況や育った環境、親・子供達の置かれてる立場や考え方などドラマの中でちゃんと理解させておきますよね。


だからこそ同性パートナーの紹介で、家族にひと悶着起こるとか、逆に大歓迎されるか、などが類推できます。成功したBLドラマの「きのう何食べた?」では、早い段階からシロさんのクセの強い両親が出ておりました。


このチェリまほ映画版では、両家の家族が全員が初めまして、です。せめて6話に登場した、威勢のいい黒沢のお姉さんあたりが潤滑油として出てくれたら、また違ったかもしれません。


特に黒沢母なんて息子「優一」は、イケメンで頭脳優秀・スポーツ万能・仕事でも成功をおさめており、女性もキャーキャー騒ぐような「自慢の息子」だったはず。


その優一が選んだのが男性である、と知ったらどれほどショックだろうか・・・。(半年は寝込むじゃないでしょうか)


正直言って、最初は門前払いでもおかしくないほど抵抗を見せてもおかしくありません。それは、イケメンの黒沢に戸惑いを見せた安達の両親も同じかもしれません。


そんな両家の親達が(戸惑いを解消しないままに)息子2人が本気で愛し合ってるのを感じとり、その仲を認めて祝福する。
・・・なんだか見てるコッチのほうが居心地の悪さを感じました。


いくらおとぎ話だからとはいえ、そんなに簡単で都合の良い描写っていいの?
そんなに日本人の大多数が進歩的でしたっけ?


とはいえ露骨に否定するのでは「チェリまほ」の優しい世界観が壊れてしまうかもしれません。こういう時こそ、何かこのいたたまれない空気を打破するようなある種のコメディセンスやワザとか必要ではないのか、と。


ふと「おっさんずラブ」6話に登場する<主人公春田、BFの牧家へ挨拶する>シーンを思い出しました。息子がゲイであることも知らない(牧の)雷オヤジに怒鳴られた春田が「話が違う・・・💦」と牧を見て悶絶する。


抱腹絶倒のシーンは5分程度でしたがすごくテンポが良く、何度見ても楽しめるシーンとなっていました。勿論、デフォルメしすぎで現実離れしていましたし、脚本家も偶然の遊び心で生まれた場面ではあるでしょう。


でも「チェリまほ」のこのあり得なさすぎる挨拶シーン見ていたら、「おっさんずラブ」の方が遥かにデキがいいわ、と感心しちゃいました。ただお堅いシーンを妙に格式張って描かないことが逆に真理を突く、ということもあるのでしょうね。


私は、「チェリまほ」での挨拶シーンは蛇足に感じました。面白くない上に現実的でもない。なお悪い事に、この映画で最もテンポを乱して、緊張感が漂い、悪印象の余韻(というか残像)が強烈に残ってしまう。どことなく昭和レトロな空気感・・・。


やっぱり丸ごと必要なかったシーンだな、と思います。

妄想結婚式もそこまで素敵じゃなかったな

その続きで白タクシードでの妄想結婚式も唐突でしたね。しかも、いきなり参列者には豊川の上司・同僚達が大歓迎(まるでOLの天空不動産じゃないか🤣)という状況。


まだ職場の人達には2人が付き合ってるのは明かしてないわけだし、男性同士のカップルを祝福するような(藤崎さん以外)描写もなかったですよね。とするとやっぱり黒沢と安達の妄想の産物なのか。


映画で初めて見る安達や黒沢の家族よりも、よっぽど顔なじみのある職場の先輩や同僚との関係性の変化が、またご都合主義でカットされてるってのはどうなんでしょう。比重が逆ではないかしら?


脚本が不特定多数のファンの好む描写を詰め込もうとした、というのは想像がつきます。おそらく安達と黒沢が共に生活し、愛し合い、ゴールインする、という視聴者の夢を叶えてあげよう、という作り手側の実に温かい思いやりが背景にはあってのことなのでしょう。


それなのになぜ、このような平凡で、こつまんない描写が延々続く羽目に陥ったのか。男女のありふれた幸せの軌跡をそのままなぞっただけの結果は、私には「絵空事」のようで、白々しく見えてしまいました。


諸外国のゲイに対する進んだ社会とか、数十年後の日本の未来ならばともかく。もっと見せ方とか、ヒネリようがあったと思うんですよね。ならばいっそ、砂浜での指輪のシーンだけでも良かったのではないかな。


ド素人の発想ですが、どうしても結婚式やりたいなら、エンドロールですね。それも出演者全員がワイワイと「映画の裏側見せます形式」でやるくらいが丁度良かったかも。

砂浜での指輪交換だけでよくない?

後半で一番良かったのは、指輪の交換シーン。お互いの指を取るところが少しエロチックでもありちょっとドキドキさせました。そして指輪をつけた2人がほほ笑んで見つめ合うシーンは、妬けるほどに幸せそうで充分に満たされました。


家族紹介と妄想結婚式をカットして、このシーンがファイナルカットなら、余韻は随分違ったと思います。砂浜のシーンの後にもまだちょっと2人のお散歩シーンが続くんですよね・・・。うーん、演出過多だな。


2人の愛の確かめ合いがくどすぎる


素人でも想像がつくような展開をあえて見せない、という思いきりの良さ、が欲しかったです。(とはいえドラマ以上の面白さを映画に求めるのは酷かもしれない、という点は分かっておりますが。)


この映画は、チェリまほファンへの愛あるプレゼントなんだな、と思います。だけど、コンサートを見に行ったつもりが身内イベント見せられた、ようなだいぶ物足りない感触を受けてしまいました。

余計なお世話ですが

最後にひとつ毒を吐かせていただくならば、グッズも公式本も発売が遅すぎ。今頃出しても、大した売上稼げないと思います。こういっちゃなんですが、欲しくなるようなモノ、あまりなかったし。


良いモノを作ろうとして時間がかかるのは分かりますが、遅くてもドラマ放映直後に出していたらもっと売れたでしょう。これからBLで稼ごうとするなら、速攻即決が大事、売り時は逃してはいけません(笑)。


「美しい彼」とか見事でしたよ。適度な露出、ブロマイドやアクキーなど欲しくなりそうなグッズをオンエア中から期間限定販売していて。私はファンになりそびれましたけど、あの戦略はなかなかのもの、と感心しました。


※勿論「美しい彼」は、ある程度の成功は織り込み済みでの下準備だったのは分かります。始めからメインターゲット層を絞っている感じでしたし、あくまでもBLに拘って果敢に挑戦していましたし。


そうそうキスシーンもね、それが必要ならちゃんと潔くにやってくれよ、というのも言いたい。何もキスシーンの演出有無でファンを分断する必要などないわけですから。


BLドラマで直キス拒否してるのに、同じ役者が女優相手でバンバンとキスシーンを見せまくるって、どうしても同性愛嫌悪(ホモフォビア)を感じさせてしまって単純に格好悪い(≒無意識の差別を感じさせる問題)です。


miyabi2013.hatenablog.com


最後にとても良い考察だと思ったエントリーを見つけたので紹介します。
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