雅・処

好きな俳優・映画・演劇などエンタメ一般やスポーツについて自由に語ります。

「モスクワからの退却」観劇記

山本芳樹、久しぶりの当たり役!

このところの暑さでちょっとばかり無気力状態なのか、なかなか感想を書けずにいたのですが、実は本日が『モスクワからの退却』千秋楽となっていたのですね。私が観劇したのは、夜でももわもわと暑い15日金曜の回でした。


その日、久方ぶりの下北沢駅に降り立つと、小さな駅にも関わらず若者達でごったがえしてクラクラ・・・。芝居小屋は、駅前すぐの本多劇場で、加藤健一事務所の作品。恥ずかしながら初めてその名を知った加藤健さんは、舞台を中心に活動するベテラン俳優さんで、毎回客演を呼んで定期的に芝居をうってる方だそうです。


今回は、客演に元劇団四季久野綾希子さんと劇団スタジオライフの看板役者である山本芳樹君を呼んでの3人芝居でした。半年近く前から気になっていたのは、芳樹君の(ストレートプレイものとしては)初めての外部出演だったからです。またチラシもなかなかに麗しく(笑)、目を引きました。


芳樹君の外部出演と言えば、コンテンポラリーダンスでのものが多く、私も過去2回ほど足を運んだのですが、どうもイマイチ趣味ではなく。。。スタジオライフの本公演では、毎回のように主役をはってる彼ですが、何故か外部の本格的な芝居への参加がないのが気になってもいました。


満を持して・・・と思いきや、いざ幕が上がってみるといつもに比べて等身大の役にとても新鮮味があって、「なかなかいいじゃん!」と嬉しくなっていきました。このところ、ライフでは若手を引っ張っていこうと、かなり肩に力が入った熱演が多かったのですが、力まず自然体の芳樹君を見るのは考えてみればお初に近いかもしれません。

破局に直面する小さな家族の物語】


芝居のタイトルから、モスクワを舞台にした?えらく深刻なシリアス劇を想像していたのですが、その予想とは全く違って、ごくありふれたどこにでもあるような身近な家族の話でした。タイトルの由来は、<ナポレオンのモスクワ遠征の悲惨さ>を記した小説の題名で主人公である父親の愛読書だったのです。


あらすじ:33年回目の結婚記念日を控え、妻アリスは、いつものように自分に本当の心の内側を見せない夫エドワードに苛立ちを隠せず、責め続けていた。教師である夫エドワードは、その重圧に耐えかね、とうとう家を出る決心をする。教え子の母親と恋に落ち、新しい暮らしを選んだのだ。アリスは、従順な夫の突然の裏切りを信じることができず、激しく動転する。二人の一人息子ジェイミーは、父母を気遣いながらも息子の立場で、変わらず優しく接しようとしている。平静を取り戻してきたように見えたアリスだが、遠方へ転居を決めた夫の元に、ナイフを忍ばせた本を持って会いにいく・・・。


熟年離婚のような話で、非常にシリアスな局面でありながらも、交わされる夫婦の会話は、いたって真面目なのに、その純朴さが笑いに転じて、飽きることがありませんでした。そしてベテラン役者の2人にひけをとらない、芳樹君のジェイミー。32歳で、何かしら簡単に相談できない悩みや寂しさを抱えていながらも、それなりに大人の素振りで、父母にわけ隔てなく愛情を注ぐ息子役。


ピチピチの蛍光黄緑色のシャツを細身の身体にまとって現れた時は、はちきれそうな少年っぽさに驚きました。この芝居での彼は、歳相応の若者でありながらも熟年夫婦の愛情を一身に受けて成長してきたことが自然に「息子らしさ」を醸し出していてなんとも可愛いのです。


一番可笑しかったのは、人生相談のアルバイトを始めた母アリスが電話口でHIV感染者のゲイの若者と話が合って「あの人達って、すごく優しいのよ」とジェイミーに語ってきかせるところ。そのゲイ達に彼の事を話すと「その子、きっとゲイよ。」と言われた、と笑顔で報告する母に、「ちょっと待ってよ!」とずっこけるジェイミーがあまりに”らしくて”ウケまくり。


独身で一人暮らし、生活に起こる小さなトラブルなんかもいちいち両親に話して聞かせたりしない現代っ子、ジェイミーの”隠された過去”なんかも知りたくなってしまうのは、芳樹君のジェイミーがとても魅力的だったからかもしれません。全体的にソフトな語り口でありながら、ちゃんとメリハリをつけるところでは、いつもの芳樹節も健在で。おまけに「華」もあるし、可愛いし(笑)、言う事無し。


 こんなよっちゃんを見たかったのよ


と、最後までご満悦となりました。ライフでは「作品もファンタジーとか日常から離れたものがほとんどで、リアルな作品は少ない」(パンフより芳樹談)と言ってるだけあって、言われてみればそうなのね(笑)、と思ったりもするのですが、それ以上に年代の高い役者さんの胸を借りて、という機会は滅多にないわけです。


そしてどこにでも起こりうる日常劇というのも、そんな中に存在している「ごく普通の青年」役というのも、考えてみればほとんど芳樹君の過去の役柄にないわけで、繊細すぎたり、屈折していたり、激しかったり、とある意味過剰な役柄ばかり見てきたのだから、新鮮なのも頷けます。そしてそれが予想以上に良かったのも嬉しい誤算でした。


ここで一つステップを踏んだとしたら、また広がっていくものがあるやもしれず、ちょっと楽しみになってきました。かといって、ライフのほうにも出て欲しいのはやまやまではありますが。劇場で買ったパンフレットには、影絵の旅回りがきっかけでライフに誘われた経緯や、今回の芝居にシンクロするような実の家族の話なんかもあって、知ってるようで全然知らなかった芳樹君のバックボーンもちょっとわかってお得な気分でした。


また更に客席には、曽世さん、船戸さん、ちゃん、舟見ちゃん、山崎さんというライフ役者の贅沢な顔ぶれと「めざましテレビ」の軽部アナウンサー*1の姿もあって、楽しかったです。山崎さんと大ちゃんが芝居中も帽子を被りっぱなし、だったのが「なぜに?」なのと、どこに居ても見つけてしまう、妙に存在感のある(笑)曽世さんが印象的でした。

*1:かなり似ていたのでたぶん本人だと思います。