BL映画に新たな一ページが刻まれました
今年の初夏に東京で封切られ、全席売切れ続出だったという噂を聞いていたのが『どうしても触れたくない』。予告映像を見た限りでは、「どうだかな~?」という感じだったのですが、その評判の高さと原作漫画の人気(私は現時点では未読ですが)なども合わせ、とても「見たい!」と思っていた映画でした。
迷うことなくDVDを予約購入。この連休を利用して見ました。ストーリー自体は、全編通して、そこまで大きな事件は起こらないし、主役二人の恋の駆け引き(?)も実に淡泊で、いつの間にか「そういう関係になっていた」的な感じ。で、ユルいけど、言葉のキャッチボールが、何気に心地良いような、普通の台詞が少しずつ2人の距離を縮めていく「心情系BL」とでも言いたくなる作品に仕上がってます。
主人公・嶋は、仕事においては有能ですが、昔の失恋が元で心に傷を負い、他人とあまり馴染めない、やや暗めな男性。その嶋に、直属の上司という立場から興味を持ち、何かとちょっかいを出し、世話を焼く外川課長。この外川の軽めで嫌味のない一言一言が、カチコチだった嶋の心を少しずつですが、溶かしていく過程がなかなかによろしいのです。
まあ基本的には、私の苦手なオフィスラブ、「リーマンの恋」なんですけど・・・(汗)。全体的に丁寧な描写が多く、嶋と外川のやり取りもとても自然で落ち着いてます。部屋の中の会話なんてもっと静かで、その静けさと同化するようにボソボソッと続くので、見てるこちらも耳を澄まして聞こうとしてしまいます。天野監督の女性ならではの拘りというか、とにかく丁寧に作品を創り上げようとしている想いが、一層伝わってくるようでした。
とにかく1週間程度での弾丸撮影が多い低予算BL映画。この映画も5日間で撮影されたそうですが、それだけにシーンは録りだめしてるのが分かりますが、比較的カメラの動きが少なく、あまり変化をつけたアングルもありませんし、引きや長回しもあったりして、小手先のテクニックで誤魔化すのではなくて役者の演技に集中して撮っているのが分かりました。
動きの少ない映像ですが、「画」はとても綺麗です。何よりも、柔らかな明かりが照らす無機質な空間の中で、役者の繊細な表情がとても映えていて、女性監督らしい繊細な映像美、と感心しました。
一つだけ弱点を挙げれば、外川が嶋への愛情を実感するくだりがどうも弱いかなあ・・・。もともと原作がBLですから、オトコにときめくのは織り込み済みなのですが(笑)、実写となるとある程度分かり易さも必要なんでしょうね。外川役の谷口賢志さんも監督に、「外川は、一体どこで嶋に惹かれたのか?」と聞いたそうですが、分からないのも当然(私も分からないですもの)。
外川は嶋に対して、「お前、可愛いなあ」とは、何度も語ってますが、それだけで好きになるのは、相当にハードルが高いわけです。結局、「理屈ではなく好きになることもある」ということで納得させていたそうですが、役者ってエライなあ、と私なぞは感心してしまうのです。
たとえどんなに難しい役であろうと、自分が分からない役であれば尚のコト、前向きにチャレンジする姿勢というのが本当に尊敬しちゃいますね。三十路過ぎの頭がやや固くなった頃の男性が遠慮がちに語る、戸惑いにもグッとくる、のでありました。
【外川の際立つダンディさとナイーブさにクラクラ】
そういった映画全体の印象もなかなかですが、もう登場後、速攻で「外川」に惚れてしまいました(笑)。この方、あまりに男前で素敵すぎ!ぶっきらぼうな台詞の中にハートフルな感情を忍ばせているだけでもヤバイのに、嶋を見て優しくいたづらっ子のようにニヤッと笑ったり、「お前可愛いな」って頭を撫でたりするところが色っぽすぎです。また、要所ではめちゃくちゃ男らしくて、女性目線で見てメロメロになってしまうのも(参りました)。
正直、BL映画に”お約束”なカラミ(笑)については、おまけ程度です。キスも長い割には、いやらしさが全くありません。ところが、ベッドで2人で並んで寝ていたり、隣に座ってるところなんかがやけにエロっぽいんです。嶋が、あまり成熟していない中性的な青年だから、年上の外川が柔らかく庇護している感じがバランス的に魅力を増大させています。(好きなんですよね、年の差カップル)
原作では、外川は30歳の少し手前くらいの年代ですので、嶋ともそこまで歳の差はないのかもしれませんが、嶋役の米原幸佑君は28歳で、外川役の谷口賢志さんは36歳。男盛り満載の三十路男の色気には、結構弱いワタクシ。BLってただでさえ、男性をより魅力的に見せやすいので、直球でハマってしまいました。
外川のちょっと軽口たたいているくせに、目がとても真剣だったりするところとか、谷口さんはこの演技どこまで計算して演じてるかしら?と謎だったのですが、舞台挨拶の映像(初回特典盤DISK2)なんかを見ると”気さくなお兄ちゃん”全開でどこにもあのダンディな外川の面影が・・・汗。本人も自分でないみたい、と思ったそうですけど。
それにしても特典映像での谷口さんのインタビューは、当り、でしたね。「若くて綺麗なお兄チャン達がするもの」と思っていたBL作品のオファーが自分にきて当初は戸惑いを隠せなかったことや、「まさか俺、”する”ほうじゃないよね?」と事務所スタッフに確認した話とか、大人なりの好奇心旺盛な反応にイチイチ爆笑。ラブシーンの演出の裏話なんかも可笑しかったですね。
一方で、役柄としての嶋のピュアさに「忘れられない大事な役」と語る米原君も素敵でしたし、そんな役に入り込んでいる米原君が相手役が良かったと語り、飾らない真面目な天野監督にも好感を抱いていた谷口さん。主役達がちゃんと作品に思い入れを持って演じている、というのがちゃんと映画の中に投影されていていたように思います。
日本のBL映画も、そろそろ可愛い男の子達を愛でる段階から、一歩抜け出して、新たな潮流を見出したのではないかな、と転機を感じさせる作品でした。
■2015.10.12追記:なんと全く記憶になかったのですが、2009年に米原君を私のご贔屓劇団でもある、スタジオライフのプロデュース公演でナマで見ておりました。女役を演じていた、って記憶がぼんやりとしているのですが、自分でしっかりブログに名前を書いてて驚きました(笑)。むしろ同じグループの上山竜司君の方は印象にあったのですが・・・(汗)。
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