雅・処

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映画感想「彼らが本気で編むときは、」と「ブエノスアイレス」

「彼らが本気で編むときは、」優しいファンタジーと少しの毒と

先週公開の荻上直子監督作『彼らが本気で編むときは、』を見てきました。BL系やLGBT映画を特に興味深く見ている私にとって、半年くらい前から公開を待っていた作品でした。荻上監督作は、『かもめ食堂』『メガネ』などが有名だと思いますが、私は『バーバー吉野』しかまだ見てません。この映画の中でも古い町のしきたりに盲目的に従っていた子供たちが、1人の転校生の出現を機に次第に自主性に目覚めていく経緯が、すごく可愛らしい映画で好印象でした。


そして本映画。癒し系映画と称されていますが、今回は監督自ら「第二章の始まり」と語っていたので、これからは社会問題などにもキビシイ視点を向けていくのだろうなあ、という覚悟は伝わってきていたので、結構期待していたました。もちろん、小学生くらいから知ってる生田斗真君のトランスジェンダー役と、ノッてる桐谷健太さんとの共演も大きな魅力の一つではありました。


映画は、分かりやすく考えさせられる内容ですが、全体的にすごくオーソドックスな作品でした。トモ役の柿原りんかちゃんが程よく芯のある女の子だったので、ベタベタした嫌な感じがしませんでしたし、子供の眼を通して次第にリンコ(生田)さんが”女性に見えてくる”マジックもあり。さりげなく性別適合手術についても語っていたり、編み物にもある儀式の意味合いがあったりとなかなかに奥行きが感じられました。


一番良かったのは、トモの同級生カイ(込江海翔)というゲイ性質を持った少年との関係性でした。普通の母親として、ややヒステリックで過保護なカイの母親を小池栄子さんが演じています。息子の性癖をうすうす感じていながらも無理やりでも「まともに」したいという行動や、リンコに対するきつい言動がこの物語の中での大きな見せ所ですね。偏見をもつ世間VS自分の道を貫くリンコとの対比的な。


リンコの中学生時代を演じた子役の高橋楓翔君も、可愛くて良かったです。ラブリーな男の子を配するのはさすが女性監督の目利き(笑)という感じですね。

ちょっと気になったご都合主義な設定


ただ全体的にはかなり穏やかで優しい映画でした。桐谷君演じる理解ありすぎのマキオにしても、最初は戸惑いながらも割にすぐなついてしまうトモ(半分ネグレクトされた子供という特殊事情はあると思いますが)、介護職員として普通に働ける職場もあって、リンコさんは母親も理解者でかなり恵まれた環境にいます。確かに日常でこういう事があっても、今の時代「いろんな人がいる」と無関心な人々も多いので、大きな物語のうねりを作るのは大変かもしれません。


何よりも生田君、(女性には見えないけれど)それなりにイケメンさんですし、頑張ってフェミニンなムードを醸し出していて健気だし、非常に料理も上手で家庭的、となると一緒にいると心地良い人なわけで、そこがこの映画に漂う若干ファンタジー要素の部分かな、とちょっと抵抗を感じたところですね。性別適合手術を受けるほど真剣に女性になりたい、という人に対して理解はしているつもりでもどうしても分からないのが、彼らの「目指す女性観」でもあるんです。


私は、自分の女という性別が子供のころからうざったくて仕方ありませんでした。胸なんて邪魔で仕方ない(生物的な造形自体も違和感あり)、それ以上に「女性らしさ」の呪縛というものに今なお強い抵抗と嫌悪を感じるほどにキライです。かといって男性になりたい、というほどの度胸もなければ、深刻に思い願う部分もない。どうせなら中性くらいで充分なのになあ、なんて曖昧な感じ。だから、テレビでいわゆる可愛い女性的なタレントさんを見るとまるで異性というか別の性を見てる気がしていて真似したい、ということもない。


なので、女性になった元男性の方もいろいろなタイプがいると思うのですが、”オッパイ”や女性的な体の構造を熱望し、女性的な振舞いや衣服&化粧をしたい、というのだったら、それはそれでまた世俗の慣習に裏付けされた「女性」という型に自分を当てはめて女を演じているだけじゃないか、とちょっと穿った見方をしてしまいます。一方で、そこに焦点を当てた方が共感しやすいというメディアのご都合主義もあるのでしょうけど。


なんだか別の意味で、「偏った女性像の押し付け」のような気もしなくはないんだよなあ、と考えてしまうのですが、とはいえ、当の本人が一番望むように生きたいようにしたいようにすればいい、というのもあるわけでそのあたりいつもせめぎ合いしちゃうんですね。ちなみにリンコさんが子供を産むことができない、と大きな悲しみのようにいうのも、いや素敵なパートナーがいるだけでアナタ充分勝ち組ですよ、と思ってしまう自分もいて。(女性だからって誰でも子供を持てるわけでもないわけだし。)


とはいえ、DVDは買うだろうなあ。こういう多様な価値観を持つ映画は、どんどん出てくるほうがいいですからね。


話は逸れますが、ジャニーズのネット露出の制限はどうにかして欲しいものです。ベルリン映画祭に出席した生田君をまるで亡き者のように写真カットしているものだから、どんな服装で参加していたのか海外のメディア情報で初めて知りました。集合写真にまるで存在してないかのようなカットしていて、「やりすぎでしょ、これは!」という憤りも。なんといっても主役なんだから。

20年後に見た「ブエノスアイレス

昨日、ウォン・カーウァイ監督作の『ブエノスアイレス』を見ました。初回に見たときは、若すぎてなんだか分かんない映画、とあまり印象が良くなかったのですが、ここ最近になって急に見返したくなったのです。今は亡きレスリー・チャントニー・レオンの同性愛映画。撮影当時もいろいろとトラブルあってなかなか完成せず、あとからつぎ足してなんとか完成したといういわくつきの作品。


カミングアウトはしなかったものの真のゲイだという噂のレスリーはともかく、トニー・レオンはかなり強固に出演に抵抗をしていたという裏話を読みましたが、それでいて映画の中のラブシーンは激しく、喧嘩ばかり繰り返し、傷つけあいながらも別れられない2人の関係性などをキッチリ演じていて感心しました。ストーリーは、あるようなないような・・・で進んでいきますが、とにかく彼ら二人の人生の悲哀は溢れるほど強く伝わってきます。


自分もこんな映画が分かる年代になってしまったのか・・・なんてしみじみ噛み締めておりました。それにしても、中国人の愛は激しいなあ・・・、こんなに感情をぶつけ合っていたらとても身が持たないと思ってしまいますが、発散するのが返っていいのかもしれませんね。それにしても、ウォン・カーウァイ監督、イマドキの若い人はきっとあまり知らない監督になってるかもしれませんね。'90年代香港ニューウェーブで世界を席巻していた監督ですが・・・時代の趨勢というのは寂しいものです。