雅・処

好きなアイドル・俳優・映画・演劇などエンタメ一般やスポーツについて自由に語ります。

スタジオライフ「アンナ・カレーニナ」観劇記

愛しすぎた末の愛憎劇

6月最初の週末に、東京で劇団スタジオライフの「アンナ・カレーニナ」を見てきました。この時、ドはまりしていた「おっさんずラブ」の最終回オンエアと重なり、半分以上、心こにあらず、の状態。帰ってきてからもOLの余韻にどっぷりで、感想を書くのが遅れてしまいました。


名作すぎる名作で、宝塚でも上演されたことのある「アンナ・カレーニナ」。私自身は、全然このお芝居を見たことがなく、ずっとロシアが舞台の不倫劇、という印象しかありませんでした。なんとなく悲劇に終わる話なんだろうと。


原作も読んでないのですが、人づてに聞いたところ、この舞台化では、いろいろと脚色もあったようで、原作にない設定なども大胆に入れているようです。戯曲は、2014年に舞台化した「大いなる遺産」と同じジョー・クリフォード版。


先に曽世さんのアンナを見ました。真っ赤なドレスに身を包み、年下の将校ヴロンスキー(笠原浩夫)と一瞬で恋に落ち、家族を捨ててしまう女性。貴族社会の息苦しい生活の中、世間の目を気にして自分を押し殺し、徐々に切り刻まれていく心を、強すぎる情念と共に演じてくれました。


曽世さんは、「パサジェルカ」の時もそうでしたが、自分の中で感情がどんどん増大化していって抑えきれなくなっていく狂気の女性役が本当に似合う。どうしたって、太刀打ちできない運命に立ち向かって壊れてしまう女性というのが、序盤から悲劇の匂いを醸し出しながらずっと進んでいくので、壮絶に重い。


そして、「妻」「母性」「母親」というキーワードがこれほど似合う男性も珍しい(笑)。女性的な感性も併せ持つ繊細さがある方という印象なので、女性役は本当に魅力的だし、もう女優より女優なので、圧倒的なヒロインぶりに圧倒されます。


対して岩崎大ちゃんのアンナは、もう少し自由度が高いです。わがままな少女がそのまま大人になったような感じで、幾分軽やかに見やすくなります。曽世さんよりも「妻」「母」の部分より「女」の部分が勝ってるので、よりストレートに自分を解放したがっている現代の女性にも繋がるイメージ。


個人的に、大ちゃんの女役は昔から好きでした。男役の時は、激しく絶叫するような演技も、女性役では幾分押し殺して演技も素直になってくるので、すごく感情移入しやすくなって。大ちゃんにとっては、もしかしたら、こんなにも悲劇的な女性役は「死の泉」(2001年)のマルガレーテ以来でしょうか?


血のように赤いドレスを着た大ちゃんのビジュアルは、久しぶりにハートに突き刺さってきてなかなか萌えました。そこまで好きな話ではないのに、ポートレイトやDVDまで買ってしまったのは、ひとえに大ちゃんのおかげです(笑)。


それにしても、大人な役者がそろった、やたらと重厚感のあるスタジオライフの舞台は久しぶり。石飛さんリターンズの舞台も久しぶり。”女優”揃いの舞台も久しぶり、で「ザ・スタジオライフ」の世界観です。


石飛さんの義姉ドリー役も安定感抜群ですし、楢原さんのダメ夫オブロンスキーぶりもサスガでしたし。宇佐見君は、年上のミセス役が多かったのがちょっと可哀想でしたが、若手とは思えないほど演技はしっかりしてました。伊藤君の女の子も人形のような可愛らしさ。


アンナと対局にある、キティ&リョービンの夫婦愛。このドロドロとした愛憎劇に一筋の光を投げかけてくれて、救いのシーンでした。久保君のキティはいかにも箱入り娘が田舎男に嫁いで、慣れない環境で苦労する女性役、といった感じで、説得力ありましたね。


ちょっと前に、やたらホープ、という感じで身丈以上の役をあてがわれていた印象がありましたが、いまやもう堂々としたヒロインぷり。というか、すでに中堅女優の風格さえあって驚きました。本人に気負いや迷いが無くなったからなのかな。


圧巻だったのは、関戸君のキティ。彼の女役も、もう文句無し、の素晴らしさでしたが、ちょっと最近は、ダークな役が続いていたので、久しぶりに清純なキティ役を見て、心がホッコリ。そしてリョービン役の仲原君がまたお似合いすぎる良き旦那で。


正直、楢原オブロンスキーと親友というのは若すぎでしたけど、セッキーとのカップリングは最高でした。勇気を出してキティに告白したものの、フラれてしまいながらも想い続け、ようやく結ばれた時の歓喜の表情や赤ん坊が生まれた時の至福の表情など、素朴で憎めない役どころが最高でした。


これまでも、なんでも器用にこなす分、どこか爆発的に魅力を出し切れてなかった仲原君でしたが、久しぶりに素敵すぎる姿で目に焼き付けられました。


芝居の冒頭で、「28歳」(!)の若い将校役を多少ブリブリしながら(笑)演じていた笠原さんは、ラスト、悲劇の寡夫で登場した時はやはりダンディで、それでいて死に場を求めて戦場へ赴く姿にはグッとくるものがありました。


若い綺麗な少年達と繊細なストーリーで確立してきた劇団ですが、実は重く暗い男女の情念や歴史に隠れた悲劇なども扱ってきています。後者は、観客動員的にはかなり厳しいのは分かりますが、役者の成長には欠かせないので、今後も続けていって欲しいです。


次の「カリフォルニア物語」は、吉田秋生さんの原作漫画で再演。今のところは見る予定はなし。秋には、「はみだしっ子」第二弾が待っています。今度こそあの雪山事件は、扱われるでしょうか?楽しみです。