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雅・処

好きな俳優・映画・演劇などエンタメ一般やスポーツについて自由に語ります。

孤高のエリザベート(東宝・春野寿美礼編)

春野寿美礼

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もう6/25の観劇から2週間近く経ってしまって、”何を今さら・・・”感ありありですが(笑)、次ネタに進めないので書いておこうと思います。前回観た東宝版の『エリザベート』は、一路真輝さんの再演の時だったと思うので、どれだけ前なんでしょう、という感じです。それもほとんど記憶が無くて、今回観劇した時は、全くのリニューアルかと思ってしまったほど。


友人に確認すると、「演者が毎回変わるので、演出を変えられない。ほとんど変わってないよ。」という話。いっとき電飾バリバリの悪趣味な演出も話題になっていたのですが、さすがに元に戻ったんですね。東宝版は、宝塚版に慣れた私の眼には、地味で暗くて・・・という印象だったのですが、今回はそうでもなかったです。なんかたくさん人数が出てる割には、寂しく感じるなあ、というくらいでした。


お目当ては、エリザベートに初チャレンジした春野寿美礼ちゃん。実に宝塚退団以来で、4年半ぶりの再会です。そして、人気子役になってからずっとナマで見たいなあ、と思っていた加藤清史郎君。昨年の『レ・ミゼラブル』でミュージカルデビューを飾った清史郎君でしたが、私が見に行った回は見事に清史郎君を逸れてしまっていたので。しかも今回は、彼と山口祐一郎さんの”楽”ということで、思わぬプレミアでした。


正直、山口さんは他のミュージカルで何度も見ているので他なキャストで見たいような気もしましたが、さすがに歌は上手なので、安心感はありましたね。(こんなに声が高かったっけ?と聞くたびにびっくりしてますけど。)よって寿美礼ちゃんに集中して見ていました。彼女の宝塚トップお披露目作品も『エリザベート』だった*1ので因縁を感じつつも、退団後、女性役としては初めてお会いしたわけです。


ロングヘアのドレス姿で登場しましたが、意外と違和感はありませんでした。それなりに女性に戻っていらっしゃるのでしょうから(笑)、当たり前かもしれませんが。ただ、エリザベート役としては、ソプラノ高音部はやっぱりきつかったかなあ、というのが印象。寿美礼ちゃんの魅力は、あのビロードのように滑らかな低音部。ちょっと凄みを感じさせるほど味わい深さが感じられたのは、「私が踊る時♪」で山口トートと対峙してのデュエット。


皇后としての威厳を持ちトートと対決姿勢をとるような凛々しい曲調なので慣れ親しんだ中低音が耳に魅惑的に響いてきました。寿美礼ちゃんがトートを演じた'03年花組時代の『エリザベート』で、初めてこの曲がレパートリーに加わったので、なおのこと思い出深いのもあります。この曲が流れた時は、素晴らしかった”寿美礼トート”が幻のように浮かび上がってきました。


反面、「私だけに♪」のようなハイソプラノが続く曲は、長らく鍛錬していなければ厳しい感じを受けました。これは、どれだけ歌が上手くても宝塚男役スターには、相当高い課題だと思うので、歌い慣れていくしかないのでしょう。それでも音程の安定感やいわゆる歌唱力はさすが、と思ったので、このまま歌い続けていって欲しいなあ、と思ってます。

【揺るぎ無いエリザベートでした】


歌の次に、強く感じたのは寿美礼ちゃんが漂わせる孤高感です。時として”悲壮さ”も漂うような、おひとり様感覚です。結婚式のシーンからすでに何かを達観していて、決して夫フランツに寄りそって生きる、という受け身感がない。「宮廷でただ一人の’男’」と紹介されるのは、姑ゾフィーなんですが、いやいやもう一人いるだろう(笑)と内心、ツッコんでしまいました。


嫁姑対決で、フランツの譲歩を勝ち得た時の晴れがましく登場するエリザベートは、ルドルフやトートと並んで一歩もひけをとらぬ凛々しさに「カッコイイなあ」とため息。女性じゃなくて、男役のような迫力で、舞台に男3人・・・という感じでした。寿美礼ちゃんのエリザベートは、嫁いだ始めの頃から強い信念を持って、絶対曲げることはない、という確固とした自我を感じさせるのです。これは同席した友人とも同意見でした。


そのため、フランツの浮気という裏切りを許せないと宮廷を出て、各国を彷徨い続ける姿にもえらく説得力がありました。「女性としてのプライドを傷つけられた以上、ここに留まる必要はない。」という強い意志のようなものを感じさせました。このシーンは長らく、絶望の先の放浪、という見方をしていたのですが、見捨てられて悲壮感漂わせているのは、むしろフランツなのではないか、と。


そういう意味では、妻として母として家庭を顧みなくなってしまったエリザベートと、フランツ、息子ルドルフそれぞれの孤独が際立ちました。彼らは、見ている方向が全く違っていて誰も幸せになり得ないというのが、明らかなのです。一方、「ママはどこにいるの♪」と子供時代のルドルフは、寂しげに歌いあげます。10歳とは思えないほど小さくてか弱い清史郎君が実に素直にまっすぐ歌っていて、なかなかよろしかったです。


大作ミュージカルは2作目ということで、今後、ドラマや映画以外にも舞台という選択肢が増えていきますね。子役としても難しい時期をまもなく迎えていくでしょうから、いろいろなものを経験していけば、万が一タレントとして壁にぶつかっていっても、財産になるでしょう。なんだか歌舞伎界の子役を見ているようなちょっと不思議な感覚でしたが、ホッコリさせてくれました。次の日からは、次の舞台のお稽古が始まるということで、子供ながら休みなく働いて大変だなあ、と思いました。


後半の見せ場は、ルドルフとトートの「闇が広がる♪」。宝塚版でも一番好きな曲でした。東宝版は、当然のことながら、男性の演じるルドルフなので女々しく追い詰められている感じがあまりしません。革命力及ばず、の諦めに支配された感じで。ルドルフの死こそが、ハプスブルグ帝国滅亡への序章になるのですが、ややアッサリめに感じてしまいました。


東宝版は全体的に破綻がなく、「よく出来ました」という優等生な感じがします。歌もお芝居も型破りなところがなく安定していて、これ以上でもこれ以下にもなり得ない。「エリザベート」は、大好きな作品で、曲も全て大好きで、おそらくこの作品を超えるミュージカルは出てこないのではないか、と思うほどの求心力のある面白い作品なのですが、宝塚でも東宝でも公演を重ねるごとに少しずつ面白味がなくなっていく感じがして。。。


完成度が高い、というのともちょっと違うんですよね。完成度なら究極まで目指していけるのですが、こじんまりとまとまっていて、マンネリムードすら漂っている気がします。演出を全部変える、というのも難しいのでしょうけど、配役だけでは壁が崩せない。もうちょっとハードにエネルギッシュに、”何か壊していって欲しい”気がします。この作品を見てると、閉塞感漂う今の日本が重なってきます。だから余計、モヤモヤするのかしら(笑)。


ミュージカル女優としての寿美礼ちゃん、もっともっと高みを目指して欲しいと思ってます。余談ですが、もうちょっと太って体を作ったほうがいい気もしますね。宝塚時代、あれだけ歌えてあれだけ魅了してくれて、今でも忘れられないほど強烈な魅力を持っていた生粋の”歌い手”です。またいつか、彼女の歌にひれ伏す日が来ることを祈って・・・。


エリザベート―愛と死の輪舞(ロンド) (角川文庫)

エリザベート―愛と死の輪舞(ロンド) (角川文庫)


エリザベートの舞台版小説も出ているんですね。


エリザベート ― オリジナル・ウィーン・キャスト

エリザベート ― オリジナル・ウィーン・キャスト


ソロパートのみならず、コーラスやオーケストラまですべての曲が好きです。史上最高と言っても過言ではない鉄壁ミュージカル。日本盤も発売して欲しいですねえ。

*1:もう9年も前になりますが、今でも鮮明に焼き付いています。