雅・処

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スタジオライフ『LILIES ’13』観劇記(2)

過去と変わった演出

前回までと今回の「Lilies」の何が変わったか、それは芝居を見た方なら一目瞭然。まず、予告されていました舞台セットの違い。サンモールに戻って、舞台の奥行・高さ・幅などが変わりましたが、セットがシックになりました。レンガ色の壁ではなく、鉄の独房を思わせるモノクロの檻。可動式だった階段は、2階の左端にどっかりと固定されております。空間も広く見えます。


かつては何度か2階を移動していた、老シモン&老ビロドーが1階に留まったおかげで、全体的に動きを抑えた感じになっていました。 リディアンヌの気球は、模型となって現れ、視覚的に楽しさを与えておりましたね。聖セバスチャンの殉教シーンで登場した額縁に入ったイラストは、額縁だけとなって背景に使われていました。では、天井から釣り下げられたあの額縁は一体何を意味するのか・・・?


友人達も同じことを思ったそうですが、特に種明かしはなく、不明のままでした。また床には、切り株のような大きな木の板が張り付けられていました。結構な斜面になっていたので、そこに立って演技をする役者達がは疲れたんじゃないかな。伯爵夫人の死の時に添えられていた土嚢もなくなって、この斜面に寝そべるので、前方3列目以降の客席からは逆に見えづらかったとのこと。


また芝居の合間、ビロドー司教の原罪糾弾とばかりにヴァリエの死体らしきものが浮かび上がります。禍々しい効果音と一緒に出てきた焼死体には、「鑑定医シャルルかい!*1」と内心ツッコミを入れておりました。ラストシーンには、コレ要らなかったのでは?と思わなくもなかったです。なんだかんだ言って、再演・再々演で出てきた白い十字架セット好きだったので(笑)、今回はライトのみのシンプルな終わり方でやや物足りなかったです。

【老シモン×老ビロドーの比重が増大】


キーポイントは、老シモンと老ビロドーの関係性が高まったこと。老ビロドーが過去の作品よりも、ずっと存在感があるのです。シーンのつなぎ目で、常に老シモンや囚人達に敵対の目で睨み付けられているため、この劇中劇はビロドー司教へ向けられた”告発”の芝居だというのが強く感じられます。


台詞は何一つ変わっていないのに、要所要所でしっかりと舞台に引きずり込まれるビロドー司教。彼は、もはや傍観者ではなく、当事者に他なりません。それゆえ、シモンとヴァリエを破滅に追い込むビロドー少年の比重も以前より高まって感じられました。ビロドーの嫉妬、愛する人に目を向けてもらえない悲しみに裏打ちされた卑怯な振舞いの数々、そんな彼に少しだけ共感する部分が出てきたのが自分でも驚きました。


シモンとヴァリエ、ビロドーの3人の少年が思い切り若返った(笑)ことで、彼らの幼さ、無知、ピュアさが浮き上がり、同じ台詞を言っているのに、これまでよりも悲壮感が少なくなって、絵空事のように見えてしまったのは、果たして良かったのか。私の中では、ちょっと物足りなかった点でもあります。


また不満だった点は、伯爵夫人の死~屋根裏部屋のシーンがかなり駆け足になっていたため、”ため”が少なすぎ、悲壮感や余韻が減ってしまったところです。シモンが夫人の遺体に驚き、自分とヴァリエの絶望的な運命を一瞬にして悟ってしまう。その上で覚悟を決める、という大事なシーンだったのですが・・・。


確かに全体的に新しい実験的な試みがまぶされていて、新鮮に見ることができました。演出家である倉田さんのチャレンジ精神を実感しましたし、独房内での囚人達のドラマなのだ、という事実がもっと膨らまされた気がします。


次回は、キャスト考です。

*1:過去のライフの演目で、バラバラ死体が出てきます。