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雅・処

好きな俳優・映画・演劇などエンタメ一般やスポーツについて自由に語ります。

1人の役者 ノスタルジックな回顧録(3)

林勇輔

長い間、東京に住んでスタジオライフを見続けていましたが、私自身にも大きな転機があり、地元にUターンしたことで観劇に制限が出てきたのがこの頃です。ひどい時には10回近くリピートしまくっていたのが、土日をかけてダブルキャストを1回ずつ見る、ごく普通の(笑)観劇に変わりました。


そうなるとどうしても記憶は薄まりますね。今と違い、DVDもあまり発売されていなかった頃ですので、よほど印象が強くなければ断片的なものになってしまいます。一番、見たかった時に見たかった作品をいっぱい見られたことが、良かったなあ、と思ったり。


※当時、主ブログにアップした記事も埋め込んでおきます。

⑦夏の夜の夢(2006年)


現在も再演を重ねているスタジオライフの代表作。倉田さんが長年の夢だった、シェイクスピアを初めて上演したということで、劇団にとっても大きな意味のある作品だったそうです。名曲が効果的に散りばめられ、笑いどころも沢山のこの作品は、今でも大人気、飽きのこない魅力を持っています。


この作品では、妖精の国の女王ティターニアを、さんは圧倒的な迫力で演じてくれました。圧倒的な歌唱力を存分に生かし、破壊的なほどの濃い女王様、ちょっとお下品(笑)だけどチャーミングさもあり、今まで積み重ねていた正統派な女性像を捻りつぶすほどの強烈キャラクター。


なんか一番、林さんらしい見どころいっぱいなキャラクターと言えなくもないですね。デフォルメされた女性的な仕草で面白可笑しく跳ね回ってくれました。石飛さん扮するオーベロンとの素晴らしいデュエットや仲直りしてからオーベロンに向ける優しい微笑みなど、ホッコリ胸が温まりました。


3度の再演で同じ役を演じ続けたのも珍しいことだったようですが、あまりにもハマり役だったのでそれも仕方ないかもしれません。「もうそろそろ、この役はいいかな。」なんて、やり尽くしたような発言もされていて。役者としてのあくなき探究心なのか、はたまたただの天邪鬼なのか。


今、まさに4度目の再演が繰り広げられています。そこに、林さんの姿はない。初めて知る大きな喪失感・・・私だけでなく、多くの劇団ファンがその不在を噛みしめております。


⑧孤児のミューズたち(2007年)


今、もしもう一度だけ林さんの演じる役を見られるとしたら、「パサジェルカ」のリーザか、この作品のイザベルが見たいかもしれません。どちらも、女性特有の哀しみを身に纏った役どころだからかもしれません。それだけでなく、全編を通して林さんづくし、魅力満載の作品だったから。


不倫の果てに4人の姉弟を捨てて出て行った母親、子供達が成長したある日、その母親の突然の帰郷が知らされて混乱する4人。たった4人の心の動きを追った小さな戯曲。イザベラは、少し知能の遅れた娘で、姉二人は彼女にも手を焼くのですが、最後に明かされる特別な秘密。


(ネタバレになりますが)全ては、イザベルがついた「嘘」が発端。しかし、それは妊娠した自分が”母”となって家を出ることを伝えるためについたものでした。世話をかけどうしだった姉妹達に笑顔で別れを伝え、「家族への溢れる愛」を知らせるイザベル。


イザベル役の林さん、癇癪を起こしてドタバタと跳ね回る姿、困惑と不安を滲ませて姉達に反抗する姿、そして最後に見せるはにかんだような幸せそうな笑顔、これが忘れられません。小さな家のセットの中で、登場人物がそれぞれ苦しい思いを押し込めて我慢しているので、見ていて苦しくなる作品です。


だからこそ、最後に旅立つイザベルの、嬉しそうな幸せいっぱいの笑顔がたまらないのです。もちろん、役者は演技だから台本にそって、いろいろプランを組み立てて演じるのだと思います。ただ、優れた戯曲は、その作られた空間で演技以上のものを、一遍の「真実」を見せてくれるのでしょうね。観客の感情も全てそこに集約して、皆がお芝居の中の偽りの家族を”見届ける人達”になってしまうような。


林さんがカーテンコールで「倉田さん、またやりましょうね!」と満面の笑顔で再演を促していたのも忘れられません。演じていて本当に幸せだったんだろうな、と。好きな役者が、芝居自体に満たされている姿、を見る喜びに勝るものはありません。

⑨PHANTOM The untold story ~語られざりし物語~(2011年)


シェイクスピアの「十二夜」「じゃじゃ馬ならし」でも名女優ぶりを発揮し、いろいろな意欲作にも出演を重ね、ほとんどの公演に出続けてくれた林さんの真骨頂がこの「ファントム」少年編だったと思います。


素晴らしい作品であり、すさまじく神がかった名演技の連続で、改めてその卓抜した演技力と存在感をアピールした重要な作品です。もうエリックに関しては、改めて語る必要がないほど誰もが素晴らしい作品と認めてます。実現不可能と思われたDVDが発売されて、あの林エリックを”永遠のもの”と出来ただけでも、幸せな限りです。


そのエリックがあまりに素晴らしすぎたゆえに、大きな”うねり”となって林さんの運命も変えてしまったのかもしれませんね。今は、どこか苦い思い出となって、チクチクと心臓を突き刺す、そんな作品になってしまいました。


今年中に再演も決定しているだけに、また「ファントム」の強すぎる魔力に翻弄される日がくるのでしょうか。

このブログと重複する内容も多いのですが、当時の率直な心境を述べた記事です。


1人の役者 ノスタルジックな回顧録(1) - 雅・処

1人の役者 ノスタルジックな回顧録(2) - 雅・処

1人の役者 ノスタルジックな回顧録(4) - 雅・処