良くも悪くも新人公演らしい作品
ようやく『Back Cindy』初日の感想をまとめようと思ったら、早くも千秋楽を過ぎてしまったというタイミングとなりました(汗)。今回は、他の舞台と多数重なっていたので、更に遅くなってしまいました。私にとっては、数年ぶりのウエストエンド、そして久しぶりの熱い夏の新人公演。初日は、満員御礼で始まりました。
最前列は、また座布団席か?と思ったら、ひとつなぎのブロック席で狭いけれどもいつもに比べれば比較的スペースに余裕を感じました。それでも迷うことなく、背もたれありの最後列を陣取りまして、ホッと一息。小さなステージは、背景の森や小屋の扉と窓、そして井戸*1がある、というおとぎ話そのもののセット。途中、影絵の利用もあったりして小規模ながらも、なかなか凝っています。
「シンデレラ」をアレンジした芝居で、大筋はほぼ同じ*2。主役ロージーの継母ミセススノウや二人の姉ゴネリルとリーガンは、何故か大阪弁でひたすらロージーに暴言を吐き、いけずをする存在。実父のミスタースノウは、脱いだズボンが分からなくなるような恍けた人。幼馴染みの男の子ゼッドも極度のアガリ症で、まともに会話が成立しないため、ロージーは途方に暮れてしまう。
王子様の舞踏会への招待状を持ってきた部下のトロルが現れて・・・ドタバタ劇が始まります。舞踏会チケットをもらえなかったロージーは、井戸から現れた魔女のマギー・マギーからチケットの他に馬車やドレスなどを出してもらって舞踏会へ駆けこみます。さてその後は・・・というような流れ。
まあ、ストーリー自体よりもスノウ一家の謎の大阪弁や、ロージーとゼットの淡い恋心の発露(?)や、登場人物全員のドタバタ劇というのが、倉田さんお約束の見せどころなんでしょうね。物語の中盤、ロージーとゼットのもどかしい語らいでは、いつものごとく迷走気味でしたが、そんなところも「WHITE」なんかと通じるものがあって、若き日の倉田さん作らしい芝居でした。
【飛んで跳ねて!ドタバタ満載の新人公演】
初日から鬼のような形相で、髪を振り乱しガラガラ声で、取付かれたように走り回っていた若林健吾君に驚きました。今までは比較的ソフトでボーっとした感じの役どころが多かったので、(初めてぐらいに)見せ場の多い役でしたし、稽古では相当絞られたんじゃないか、と想像して見てました。
ごっつい長姉ゴネリルは、翔音君が熱演。今までにない弾けっぷりでなかなか良かったです。私の目を引いたのは、リーガン役の八木澤元気君。入団まもないフレッシュで演技を見たのは初めて*3でしたが、台詞回しが危なげなく、声がちゃんと通って、「演劇経験者かな?」というくらい安定していました。関戸君の若い頃を思わせる存在感で、今後が楽しみです。
現実的で抜け目ない王子役は、若々しい髪型(笑)に変身した藤波君で、いつものごとく”ソツのなさ”が光ります。トロル役の緒方君、いつの間にベテランのような安定感を身につけていてサスガでした。そして何よりも私が勝手ながら「スタジオライフの申し子」と呼ぶ、宇佐見君と千葉健玖君の二人のカップルはとてもお似合いで、思いを伝えきれないいじらしさが伝わってきて胸キューン。
2人の感情が何度も絡みあって空気すら震える感じというか、微妙に刺激し合っているのが表情からすごく伝わってきて、過去のライフの芝居で何度も経験した、あの”懐かしい感じ”を思い出しました。演技力は大切だと思いますが、それはこれから先にもどんどん鍛えられていきます。それよりも、入団して数年のこの時期は、役柄を超えて”滲み出る感性と情感”が何よりも大事というのが、スタジオライフじゃないかな、と思っているので、その意味では二重丸の合格点でした。
今回は、時間の関係上Amabelチームしか見れませんでしたが、ダブルのリーガン役の吉野君はどんな演技だったのかな?
【一抹の不安、冬の新作と来夏の再演作】
スタジオライフの次の本公演は、年末年始にかけてディケンズ作の『大いなる遺産』という新作です。私も題名だけは聞いたことがあるくらいなので、世間的にはかなり有名な作品だと思います。クラシカル映画にもなっていますね。映画と舞台とでは、雰囲気が変わるかもしれませんが、とにかく一番の問題は配役でしょうね。
ベテラン勢が外部出演で出払っていると、こういう”重厚そうな作品”にはかなりの痛手なので・・・。やっぱりシニアやJr.1~3くらいは揃えて欲しいところですし、Jr.5の青木君、Jr.7の松本君、関戸君あたりの稼ぎ頭も抜けると結構、厳しいかと思います。
そしてそれ以上に、「まさか」とびっくりしたのが次々回公演、巨匠と言われる漫画家・手塚治虫さんの原作『アドルフに告ぐ』の再演。確かに来年は、終戦70年の節目の年ですし、紀伊国屋ホールという老舗ホールでの公演ですから、「ああ、そうか」と腑に落ちる部分もありましたが、再演されるとは思わなかった作品なだけに驚きは大きかったです。
スタジオライフの作品群で、確かに観劇したはずなのにこの作品ほど記憶が薄い作品は無いくらいです。原作も読んだのですが、ヒトラーを描いたことと日本人の主人公が交錯する話というくらいで、ライフらしい”感動のツボ”が見つからなかった作品。なので、今のところ見に行く予定はありません。
普段、演劇を見ないような妙齢の男性や学生などの芸術鑑賞のネタにはそれなりに・・・かもしれませんが、チケットの売れゆきを想像すると、いまから大苦戦の予感がします。ハッキリ言って”リピーターが少ない作品”になるのは想定されるので・・・。集客が難しそうな作品が続くことで劇団が傾かないといいけれどなあ(汗)、と秘かに危惧しております。
それにしても「アドルフに告ぐ」の公演時期が夏、ということも驚きでした。本公演が約半年以上も空くのは、私が見てきた十数年間で初めてじゃないか、と思うので、それもまたワケありなのかしら。劇団にとっては、創立30周年の記念の年なので、合間に沢山の盛り上がりイベントがあると嬉しいのですが。